ESSAYS IN IDLENESS

 

 

Yukawa River - Fly Angler's Sanctuary -

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急遽、会社の同僚と栃木県は湯川へと向かった。水曜に車を借り、金曜は会社での仕事を早めに切り上げてレンタカーをピックアップ。糸を巻き直してリーダーを組み、釣具を車に積み込んで寝る。集合は土曜の朝5時、こういうときに限って眠れなくなるものだから、気づけば携帯を眺めているうちに朝になってしまった。栄養ドリンクや糖分が高めの朝飯を無理やり胃に流し込み眠気が来ないようにして、同僚をピックアップした。
湯川まではだいたい都内から車で2.5時間というところだろうか、ノンストップで車を走らせる。途中で見える中禅寺湖や戦場ヶ原といった美しい風景を眺めていると、いつか絶対中禅寺湖で釣りがしたい気持ちになった。赤沼茶屋というこのあたりでは有名な商店で遊漁券を買い、早速釣り場へと向かう。

湯川は他の渓流と大きく違うルールがある、それは追い抜きが自由にできるということ。みんなが好きなところから釣り上がったり、釣り下がったりするので幾度も人とすれ違う。僕らは最上流の湯滝部分から入渓して吊り下がることにした。湯川の景色はこれまで見た渓流のなかでも一二を争う美しさだった。木々が生い茂り、その間を美しい清流が滔々と流れている。そこに枯れてだいぶ経ったであろう表面がつやつやとした大きな木が倒れている。流れの緩いところでは透明な水に木漏れ日が差し込み光を反射させる。そうした中で黙々とフライロッドを振るフライマンは海外の映画のような佇まいだ。※ちなみにもう一つのルールは一帯が禁煙なこと

関東でこんなにきれいな場所があったなんて、、、という気持ちになる自然の豊かさ

関東でこんなにきれいな場所があったなんて、、、という気持ちになる自然の豊かさ

その頃僕たちはというと、一匹の魚の姿も見いだせないでいた。そればかりか、投げては上の木々に引っかかったり、流れの中の岩の間にルアーが吸い込まれて根がかりしたり、木の枝をルアーが拾ってきたりと大苦戦していた。そればかりか、僕は2度もランディングネットを紛失した。一度は後ろの釣り人が拾ってくれたものの、もう一度失くしてしまったときはだいぶ遡行して探したが見つけることはできなかった。こんな美しい環境にゴミを残してしまってとても申し訳ない気持ちになった。

ひたすら流れに打ち込む同僚

ひたすら流れに打ち込む同僚

滝の下では何匹か魚を見かけたので粘ったものの、ミノーやスプーンには反応がなかった。前にきたフライマンにだいぶ釣られてすれてしまっているのだろう、僕らはそのポイントを見限って更に釣り下った。美しいポイントは得てして攻めにくく、何度もルアーをロストしそうになりながら釣り下っていく。僕の集中力が途切れたその時、僕が踏み抜いた川岸のほうから大きな大きな影が動いて逃げていくのが見てた。間違いなく50cmクラスのブルックトラウトだった。ブルックトラウトは主に湯川、湯ノ湖、中禅寺湖にしか生息していない珍しい外来種のトラウトでここに来る釣り人のメインターゲットの一つでもある。そのチャンスを逃したときに僕の集中力は完全に途切れてしまった。というよりも、この渓流の景色が美しすぎてもはや釣らなくても満足だ、、、という気分でもあったように思う。休憩していると、僕の頭の上の木から野生の猿が降りてきたり(さすが日光)、その猿が遠くで喧嘩を始めたりと、自然をとても感じられる体験だった。ある程度釣り下がったところでこの日は釣りを諦め車に戻った。その際に立ち寄った戦場ヶ原の開けた空はとてもきれいだった。

おそらく、僕らはこれから「釣る」ためにこの川に訪れることは多くない気がする。だけれどもまた来たいと思える美しい景観がこの場所にはあった。釣り竿を持たず、カメラを持って、この美しい景色をただ眺めるためだけに来るのもきっととてもいい体験になるだろうと思う。

hiroshi ujiiefishing