ESSAYS IN IDLENESS

 

 

Moving to North (2021)

アラスカで撮った一枚。札幌の市街地の雰囲気はポートランド、道路の雰囲気はアラスカにも似ていた

2021年は多くのことが変わった年だった。様々な関係や環境が一変する、自分自身にとって大きな一年だったように思う。

仕事に関しては三年半勤めた会社をやめて業態としても業界としてもまったく新しいところへと変わることにした。そのきっかけとしては、勤めていた会社の経営方針の転換、及びそれによる人事や制度、そして文化の変化が決定的だった。利益を追求するのは良いとしても、それによって働く人の人生が蔑ろにされてしまってはいいものも作れないし、「良く生きる」ことができない。自分の人生の時間のうちの多くを過ごす職場が辛く面白くないものに変わろうとしているのは耐えられなかった。幸い、僕はその被害を受けることはなかったが親しい人たちが傷つき精神や身体を壊しているのを見ると許せないという気持ちになった。不思議なことに、僕の同僚はみんな素晴らしい人達しかいなかった。共感性が高くて、優しくて、人のことを思いやれる人たちだった。上層部の一人の意見が強くなった瞬間にそうした「優しい人達」が生きにくく「強い人=(都合のよい人)」しか生き残れないようになってしまった。これまで僕たちの部署が作り上げてきた大切な文化や雰囲気、関係性が途端に壊れて何もなくなってしまった。それを感じて会社を去ることに決めた。

「強い人=(都合のよい人)」たちが主張することは、どの世界でもおそらく精神論のようなものばかりだと思う。例えばコロナが蔓延していたとしても、団結して仕事に取り組んだほうが成果が上がる気がする。だから出社したほうがよく、フル出社を原則とする、とか。体育会系の社風になると、ベテラン同士の阿吽の呼吸みたいなものが重宝されコミュニケーションが蔑ろにされたり、知識や思想みたいなものが軽視されるようになる。文化にそぐわない人間は虐げられ排除される。大切にされるのは一人の人間の考え方ややり方であって、それが経典として機能するようになる。そうして一人の主観が正しくなると客観性が失われてまともに会社というものが機能しなくなるのは明白だと思う。リモートワークで生産性が上がらないのを個人の働き方の問題にせず、仕組みの問題として、それを改善する策を講じてほしかった。恣意的にデータを解釈して自分たちの都合のよいほうに持っていく(上層部にとって管理コストが少ない / 支配力が及ぶ)ことは悪意がある。少なくともクライアントの課題解決を行うように、自社についても同様のやり方で課題解決をしてほしかった。それが、上層部のレベル感なのであれば、もはや自分が学べることはないだろうと思う。
次の職場はリモートワークができて副業もできる。かなり柔軟な仕組みで働くことができるので入社をすることにした。上層部の人たちの人柄というのも素晴らしく、まだ話したこともないけれどよい文化が醸成されているように感じた。これまで勤めていた会社とはまるで正反対の組織であるように見えた。今、前の会社はたくさんの人がやめてしまってとんでもないことになっているみたいだけれど、何が正解だったのかはあと1-2年もすればわかるだろうと思う。

新しい会社に移るのにあたり、前々から住んでみたかった北海道への移住を決めた。春から秋にかけては渓流釣りを、冬はロックフィッシュやサクラマスを釣ることができる。広い家でのんびりと暮らしながら、自分のペースでやりたいことをやっていければ、少なくとも自分自身が不幸になることはないだろう。友達と会えなくなったりすることは多少寂しいけれども、東京に帰ることもやろうと思えばいつでもできる(はず)。住んでみて自分で体験してみないとわからないから、やるだけやってみようと思う。

アメリカを旅していた頃のように、北海道では車移動が当たり前の生活になった。車に乗っている時間というのは自分にとって新鮮で、好きなところにいつだっていける。実際のところはそういうわけでもないけれど、そんな気がする。移動で電車を待ったりすることもないし、人混みに揉まれることもないので精神的にはだいぶ楽になった。これから買った車が納車されて、自分の好きなところに行けるようになったらたくさん釣りに行って、北海道の海や川を存分に楽しみたいと思う。これまで撮れなかった写真もたくさんとって、その写真を額装したりなんかもしたいと思う。それはやりたいことリストに加えておこう。

忘れないように、北海道に最初降り立ったときのことも記録しておく。
北海道行きの飛行機に乗って、1..5時間で新千歳空港に到着。成田空港に行くまでのほうが時間がかかるくらいだったので、北海道の近さに驚いたのをまず覚えている。新千歳空港は薄暗く人もいなかった。空は曇っていて、まるで最初にポートランド国際空港に降り立ったときのことを思い出した。そのまま空港から電車で札幌まで向かうときの車窓から眺める郊外の雰囲気も、僕が住んでいたハリウッドからPDXまでの眺めにそっくりだった。茶色い草が点々と生えていて、線路と並走して道路が走っている。その道路をトラックや乗用車がまばらに走っている。雪が少しだけ積もっていて、人の姿は見えない。
札幌について、すすきのあたりでラーメンを食べて、ホテルに泊まる。その時の自分の不安感はかなり大きかった。旅行であればそんなこともなかったんだろうが、自分が全く知らない土地で暮らしていくということに漠然とした不安があったのだろうと思う。その不安はマンションにガスや電気が開通し、家具を搬入しているうちになくなってしまったのだけれど、地方で暮らし始める人にはそうした不安はあるものなのかもしれない。
それにしても、家は広くて、温かいし、不自由なく暮らせている。これでいて東京にいた頃の家賃の半分というのだから驚きだ。窓をあければ山並みが見えて、空気は冷たくて気持ちがいい。近くにコンビニはないけれど美味しいカレー屋さんやカフェがある。街までは車で10分ほど走ればつくし、近所にリサイクルショップが多くて暇を潰せるのもいい。まだ行ったことはないけれど温泉やサウナもどんどん通ってみたい。新年を迎えたらゆっくりとやりたいことを考えて、一つずつやっていければきっとこの一年はあっという間に過ぎてしまうだろう。

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