ESSAYS IN IDLENESS

 

 

PORTLAND 20191123

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ポートランドの朝はLAと比べて遥かに寒い。朝寝起きでTシャツで外に出ようものなら一瞬で体の芯まで冷えてしまう。LAから着いたばかりのころは寒くないかもと思っていたけれど、よくよく考えてみると普通に寒い。サンタバーバラで買ったHoboジャケットを着込んで一服する。まず、近所のおしゃれなカフェで朝ごはんを食べ(美味しいフルーツヨーグルト)、コーヒーを飲む。一息ついてから、大通りに移転したビーコンサウンドという素敵なレコード屋に行く。

ポートランドで暮らしていたときに、散々お世話になったテレンスとジェニファーに合うのが今日のメインの予定だった。懐かしいロイドセンター前のリトルビッグバーガーで待ち合わせた。昔と何一つ変わらない美味しいハンバーガーと、名品のトリュフフライ。付け合せのチリソースをつけて食べるとあまりの懐かしさに涙が出そうになってくる。この店はどのポートランド情報にも載っていないけれど、個人的にはぜひみんなに訪れてほしい名店だと思っている。なにせ、ポテトとハンバーガーをあわせて頼んでも$10に満たないし、めちゃくちゃお腹いっぱいになる。語学学校からの帰りにはいつもここでポテトを頼みながら彼らが到着するのを待っていたから、ほんとうに50回以上はこの取り合わせを頼んでいるけれど何度食べても美味しいものは美味しい。※僕とテレンスの間では「LLB Club」という会になっていた。

テレンスとジェニファーがガラス越しにやってきたのを見て、手を振って合図をする。テレンスが飛び跳ねながら近づいてきて昔のように挨拶をする。浅倉を彼らに紹介し、彼らがポテトを食べ終わるまでとりとめのない会話をしながらいつものように時間を過ごした。長い間彼らのように仲良くいてくれる友人というのは実は少ないのではないだろうか。もし、二人のうちのどちらかにしか会えなかったらきっと悲しい気持ちになったことだろう。ハンバーガー屋を出ると、遠目にもわかるほぼ廃車同然のボロボロのアウトバックが道脇に停まっていた。フロントガラスの日々も、エンジントラブルが起きていることも、ブレーキベルトからイカれた音がしていることも2年前のままだった。むしろ、2年間毎日この状態の車に乗り続けてまだ壊れていないということが驚きだった。車に乗ろうとした瞬間、僕たちの脇にいたホームレスと思しき男女がめちゃくちゃな剣幕で言い争っていて「これがポートランドっぽさってことよね」と皮肉の効いたユーモアを言うのは頭の良いジェニファーらしいと思った。

テレンスがドライブをしながら話をしていたのだけれど、イラストレーターとして仕事をする傍らやばい商売を始めたということだった。「I started writing HENTAI!!」と聞いた瞬間、車内が爆笑の渦に巻き込まれた。割と良い金になるらしく今後も続けていくらしい。それにジェニファーが彩色をして売っているらしいのだけれど、このカップルは本当に仲睦まじくて最高だなぁと思った。道脇の木を眺めては「これは触覚ににているかもしれない、、、」と訳のわからないことを言っては僕を笑わせようとしてくるのだけれど、そのたびに、彼はきっとスタンダップコメディアンに向いているのではないかと思っている。テレンスおすすめのコーヒー屋に行ってコーヒーを飲みながらおしゃべりをする。ローカル感があってとても居心地のよい店だった。コモングラウンドのような、でももう少し広くて上質な印象で、コーヒーや紅茶はこだわりを持って作られていた。実はテレンスは以前Tea Vanaで働いていたのでお茶やコーヒーに対する味覚が鋭い、なので彼は自分では意識していないがとてもフーディなのだ。いつも思うが彼の美味しいと思うものは贔屓目なくたいてい美味しいし、どれも有名な店ではない。むしろガイドブックに載っていたり、特集されているような店には連れて行ってもらったことがない。でも、彼の選ぶものはいつでも正しかった。彼独自の判断基準が何なのか僕にはつかめていないが、こういう独自のセンスを持った人間が羨ましく思う。

その後に、時間はあまりなかったが小さなトレイルに行って散歩をしてオレゴンの自然を味わう。テレンスだけが寒そうな格好をしていたが、僕がコートを貸そうとすると頑なに断っていた。昔トライオンクリークやマルトノマフォールに行ってトレッキングしたことが懐かしくなった。モーテルまで送り届けてもらったあとに、ハグをして彼らを見送る。これも2年前と何も変わらない僕らの別れの習慣だ。後ろ姿を見送りながら、アメリカでできたこの素晴らしい友人の尊さを改めて感じた。

僕らは明日からの遠出に備えてパッキングを済ませ、近くのスポーツバーで夜ご飯を食べにいく。ポートランドトレイルブレイザーズは新加入したロートルのエース、カーメロ・アンソニーをうまく機能させられず泥仕合を展開。何一つ見どころのない試合展開のまま試合は終わった。 なんとも言えない気持ちのままモーテルに戻り、適当につけたテレビを見ながら眠りについた。

hiroshi ujiietrip