BEND 20191124
オレゴンに長期滞在するなら、ぜひその自然を味わってもらいたい。というより僕が自然にふれたかっただけだが、街でのんびり過ごすのもいいけれど、日本では味わえないスケールの自然の中に溶け込むのもまた良い。日本にいた頃は、山奥の別荘地帯のログハウスを借りて、「ミシガンの山小屋」というコンセプトで旅行をしたりもした。それはそれで最高なんだけれど、外に出たら他の別荘がたくさんあるし、見渡す景色もなんとなく窮屈な感じがしたのを覚えている。ポートランドから南下すること車で二時間、サトルレイクという山間の湖に向かう。ちなみに朝飯は3日連続となるカオマンガイだった。
天気予報は午後から雪の予報だった。そのせいで空はどんよりとした厚い雲で覆われていた。むしろ、これまでの滞在で一度も雨に降られていないし、ほぼ快晴だったことが奇跡に近い。ポートランドから南下をするためのハイウェイは相変わらずなんとも言えない雰囲気を醸している。山道に入ってからしばらくすると一瞬の晴れ間が訪れ、木々の隙間から光が差し込んで湿ったアスファルトを照らしていた。山道の途中に枯れ木と化した一体を見つけ、調べてみるとかつて落雷で大規模な山火事が起きていたそうだ。そうえいば、昔英語の授業で大きな山火事があったということを勉強した気がしたがこのことだったのかもしれない。仲の良かった先生が言うには、山火事消化の仕事はそこそこ儲かるし、飯が食い放題だということと、山火事にあったら自分の身の回りの植物を燃やして延焼させないことが大事だということだった。確かにロサンゼルスの山火事のときにはレブロン・ジェームスがタコトラックを自費で手配していたよな、、、、とどうでも良いことを思い出した。
サトルレイクのロッジは想像の5倍くらい綺麗で、100倍くらいヒップだった。もっといかにも山小屋という雰囲気を想像していたけれどまるでリゾートホテルのような佇まいだった。髪の毛が緑色のファンキーなおばさんが受付をしてくれたのだけれど、「息子が奈良にいるわ!」ということで日本人の僕たちに対してとても好意的に接してくれた。話を聞くところによると、どうやら彼女の息子には同性のパートナーがいるらしく、オレゴンの山奥に男二人で訪れた僕たちのことをきっと同じように見ていたのかもしれない。ともあれ、僕たちの今回の滞在の中で最高のクオリティの宿であることは間違いがないし、人生においてもパームスプリングスのエースホテル級の居心地の良さだった。「レイクビューの部屋にしておいたわよ!」とおばさんが言ったとおり、僕たちの部屋は大きな窓からきれいな湖が一望できる素晴らしい位置だった。ベッドもかなり大きくて、暖炉があり、おしゃれなベッドリネンとベッドランプ、居心地のよいソファにきれいなお風呂。広いロフトにもベッドが何台もあり、理想的なアメリカの山小屋を体現したような部屋だった。
近くに街がないので、ホテルのロビーでご飯を注文する。「Grandpa’s Burger」と名付けられたそのバーガーは肉がぎっしりと詰まっていてとても美味しい。僕たちがご飯を食べていると近くに絶妙に可愛い犬が寄ってきた。どうやらここのホテルの従業員の飼い犬らしく、名前を聞くと「イギー」と言っていた。もちろんかの有名なロックスター、イギー・ポップから取られたイギーだ。それがオレゴンらしくて良いなと思った。イギーは僕たちからご飯をくすねようとはしないが、ひたすら僕たちの手元の匂いを嗅ぎにきてはおこぼれを与ろうとしていた。食後にコーヒーを飲みながらロビーにいる人達を見ていた。彼らは時間の過ごし方がとても優雅で素敵だった。子供とカードゲームをしたり、女の子同士で静かにおしゃべりをしていたり、ソファに腰掛けて読書をしたり。誰も焦って何かをしようともせず、贅沢な時間をゆったりと使っていることに感動した。お腹が落ち着いた頃に湖のあたりまで出て散歩をしたけれど、吹きすさぶ冬風に吹かれて僕たちはあえなく退散した。
部屋でしばらくだらだらすごしていたら、いつの間にか夜になったのでロビーで軽くご飯を食べた。サーモンのスープを頼んだのだけれど、とても美味しかった。隣で受付のおばさんが飲んでいたので話を聞いてみたところ、ここの従業員はもともとエースホテルの従業員だったらしい。だから、このロッジはエースホテルの分店みたいなものなんだと言っていた。こんな山奥の絶好のロケーションにこんな素敵なロッジがある理由がわかった。「エースホテルバイブスを感じてたんだよね!!」と言うと他のスタッフの人も喜んでくれた。そんなこんなで一時間くらいだろうか、身の上話をしたり、彼女の息子の話を聞いたりしているうちに夜は更けていった。寝る前に散歩に出たときにはもう地面に薄っすらと雪が積もっていたし、水たまりが凍り始めていた。空には無数の星が輝いていて、わざわざここまで運転してきた甲斐があったと心から思った。