ESSAYS IN IDLENESS

 

 

PORTLAND 20191126

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この日の雪道は過酷だった。なんならアラスカで死にかけた道よりも遥かに身の危険を感じた。ノーマルタイヤの限界に迫る道筋は、僕らの魂を無事にポートランドへと導いてくれるのだろうか、、、、。朝起きるとぼた雪がガンガンに降っていて、流石にやばいかもしれないなと冷や汗をかいた。天気予報によればこのあと更にひどくなるという見込みもあったので、急いで車に荷物を載せてロッジを出ることにした。車の中もキンキンに冷えていて、エンジンも少し温めなければエアコンから冷風しか出てこない。窓に張り付いた氷をアイスブレーカーでこそぎ落とす。ようやく準備ができたところで、ゆっくりアクセルを踏み込み公道に出ることができた。下り坂は大きなトラックが異常なほどゆっくりと走っている。軽い渋滞になっているし、後ろから颯爽とスポーツ系のSUVが煽ってくるがここで焦ってはいけないということを僕は知っている。どれだけ人に迷惑をかけようと20マイル前後のゆっくり運転を心がけなければ僕たちに待っているのは大事故だ。フロントガラス越しの景色が真っ白になってしまうくらい強い吹雪が吹き始めてくると焦りも大きくなる。何度も後続の車に道をゆずり、自分のペースを乱さないようにした。来るときは1時間くらいでこれた山道も、その何倍も時間がかかったような気がする。ようやく命からがら麓のほうまで来ると、雪はやんで路上の雪も少なくなった。道路脇のコンビニでこの日一杯目の温かいコーヒーと、タバコを2本。昔トラックストップで寝泊まりしていた時の朝を思い出す。この日はもうだいぶ頑張ったな、という気持ちになった。

ポートランドに戻り、ホテルへとチェックインをする。今日のホテルは前々から宿泊をしてみたかったマクメネミン系列の「Chrystal Hotel」というホテルだ。一回にはカフェとバーが併設されているし、隣には何度もライブを見に行った「Chrystal Ballroom」がある。ひとまず腹ごしらえにバーガーを食べてから、車を返すために空港へと向かった。途中、ヘブンリードーナツという見るからにサグいドーナツ屋に寄った。フランク・オーシャンの『Provider』のジャケに写っているから立ち寄ってみたというだけなのだけれど、これが見た目に反してとても美味しかった。ぶっきらぼうな店員が雑にドーナツを取り分けてくれるし、科学的な香料がバンバン入っていそうなレモンクリームのドーナツはジャンクフード好きにはたまらない。むしろフランク・オーシャンはこんなもの食べてるんだなと言う驚きもあるが、ガチの飾らない感じも好感が持てて良い。

ダウンタウンまでの帰りはせっかくなので電車を使ってみた。もともと住んでいた近くのハリウッド駅や、危ないと何度も言われた130番通りの駅を通り過ぎるとき、無性にポートランドが懐かしく思えた。そのままダウンタウンを少しぶらついてスリフトやナイキショップを見て回る。歩き疲れてホテルに戻る前に、サンテリアで大きなブリトーを食べる。めちゃくちゃ気さくな店員には申し訳ないが、このとき僕は歯の痛みが限界を迎えており口を開けるのもやっとで、恵方巻きを3倍太くしたようなサンテリアのスペシャルブリトーは半分も食べられなかった。。。味は間違いなくめちゃくちゃうまい。

クリスタルホテルの客室はこれまで宿泊したホテルの中で最も小さかった。日本のビジネスホテルと大差ないが、内装は3倍くらいセンスがある。(とはいえ、この今日の疲れだと広い部屋の大きなベッドに頭から突っ込みたい気持ちもやまやま)。このホテルの客室は何かしらの曲名になっているというポートランドらしさ。僕らの部屋はブラック・アイド・ピーズの『Where is the love』(懐かしい!)、僕らの隣の部屋はソニック・ユースの『Cool Thing』だった。このホテルはダウンタウンから至近だし、近くにコンビニもあるので生活には困らない。夜中に意味もなくコンビニに行くというのも旅の楽しみの一つではあるし、何より出歩く理由がそこら中にあるというのが心の安心を生むものだ。

hiroshi ujiietrip