Welome to Yamanashi! 1
兄の結婚式の翌週はとんでもない一週間で、まともな時間に帰れない日々が続いていた。本当は金曜日には早く帰って旅の準備をしたかったのだけれど、帰ったのは深夜1時。そこからパッキングをして、翌日の登山の準備を整えた。もし、自分だけでこの予定を決めていたら確実に諦めていただろうが、こんな状態の自分でも旅行に誘ってくれる友達がいるおかげで、外に出て新しい体験をすることができていることをとてもありがたく思う。
年間5回の登山の予定のうちの2回目は、比較的難易度が低いが景色がよいことで有名な日向山という山梨県の山だった。日本百名山にも数えられているらしいこの山は、山頂付近に砂浜のような開けた場所があり、他にはない景色を見られるということで登山者の間ではわりかし有名な山だ。花崗岩が風化してできた砂地が非常に美しいらしく、それを写真で見て一度行きたいと思っていた。※高度も1600m程度でそこまで高くないので、日帰りでも無理なくいける山らしい。午前中にゆったりと出発し、甲府へと向かう。中央道を西へと行くと美しい南アルプスの山並みが青空に映えて、富士山がくっきりと見えた。今回の登山はきっといい天気になる予感がした。
歓楽街脇の場末のホテルにチェックインし、ロビーでタバコを一服した後に甲府の街を歩く。土曜だというのに誰も歩いていないアーケード、閑散とした商店街を歩く。地方都市の衰退をひしひしと感じつつも、こうした廃れかけた町並みの良さがなんとも言えない。昼間からソープ街のキャッチのおじさんたちは熱心に接客しているし、老人向けの集会所ではロビーのテーブルが麻雀卓になっていて、昼間からたくさんのご老人の方々が麻雀に興じていた。駅からほど近いところにある六曜館という名前の素敵な喫茶店を見つけ、そこでコーヒーフロートを一杯飲む。だいぶ暑かったので(真夏日だった)熱中症気味だったので、冷たいコーヒーが体に染みる。
そんな折、田我流の「うえるかむとぅやまなし」というマニアックな山梨探訪の動画があることを思い出した。山梨県の旧一宮市出身のラッパー田我流による完全に誰得な山梨紹介Youtubeチャンネルなのだが、話のトーンや店のチョイス、そして何より彼の地元愛が感じられて最高で一時期何度も見ていた。彼の紹介した場所を巡ってみようと思い、早速車を飛ばして隣町へ。リオスフィッシュパークという釣り堀は最高で、天高20mはあろうかという巨大な屋内と、施設のど真ん中に生えたヤシの木。天井や壁がすべてガラスでできているため開放感があり、そこから差し込む光が美しい。汚れたベンチや蜘蛛の巣のはった扇風機が良い色合いで、それらすべてが組み合わさると奇跡的なノスタルジーがあった。客は僕たち以外に3人の少年がいるばかりで、こんなに素敵な時間に広々とした、美しい空間で釣りを楽しんで良いのだろうかという罪悪感すら感じるほどだった。釣りを始めるうちにあたりは段々と暗くなり、空いた天窓から差し込む光も徐々に赤みを帯びてくる。外の景色は夜の青さを帯び始めて、それもまたきれいだった。肝心の釣りはというと、釣果は7匹。うち2匹は30cmくらいはありそうな大きな鯉だった。管理人の人に話を聞いたら、日曜は常連がたくさん来るからこの広い釣り堀が人で一杯になり座れないとのこと。
釣りをひとしきり楽しんだ後、近くにあるほったらかし温泉に行き風呂に入る。これほど開放感のある温泉というのは初めてだった。景色やお湯加減も最高だけれど、風呂上がりに甲府盆地の街の灯り(日本三大夜景らしい)を見ながらタバコを吸ったり、ご飯を食べたりできるところも含めて最高の温泉だと思う。その後、「うえるかむとぅやまなし」に最初に紹介された「桃光」という中華料理屋に向かう。もはや閉店間際だったけれど快く迎え入れてくれた。担々麺や餃子、麻婆豆腐、どれもシンプルに美味しいこれまた最高の店だった。高級な中華店の上質な味ではないが、期待を遥かに越えるちょうど良さというのは確かに存在していて、町中華の魅力とはそこにある。そのちょうど良さにもいろいろとあり序列が存在しているが、この店の味はそのど真ん中に位置している。この店を見つけ出し、紹介してくれた田我流には感謝の気持ちしかない。そしてこの店を選んで通っていたという彼のセンスには信頼しか感じなかった。
明日の登山に備え、ホテルに戻りロビーで一服をしていると、にわかに人の出入りが増えた。まず中年の男性が何人も入ってきて、その後にいかついお兄さんが若い女性を連れて入ってきては、またすぐに出ていく。そう、このホテルはそういう店によく使われるホテルだった。実際にそういう光景を目の当たりにしたことがなかったので軽くカルチャーショックではあったけれど、それを含め甲府の1日目は本当に最高だった。