ESSAYS IN IDLENESS

 

 

Welome to Yamanashi! 2

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朝早くに起きて日向山へと向かう。いつも思うけれど登山最大の障壁は早起き、これは本当に大きなストレスだ。いくら登山が楽しみだとは言え、早起きの辛さというのはどんなときでもつきまとう。車で40分程度走り、山の麓の駐車場へと向かう。全体で4時間くらいの工程を予定しているけれど、体力が持つかどうかはかなり不安だった。登山届を出して山道を歩いていく。早々に急勾配の上り坂が続き息が少しずつ上っていく。軽めのバックパックで望んだものの、背中はしっかりと汗ばんでくる。気温は30度以上上がるという予報があったけれど山の中は比較的涼しく快適だった。少し開けた場所にいくと爽やかな風が吹いてきて心地がよい。あたりは静かで、時折うぐいすの鳴き声が聞こえる以外は自分たちの歩く音以外は何も聞こえない。休憩をはさみながら登ってはいるのだけれど、疲れてくると周りの自然の美しさが目に入らなくなったり、早く山頂につかないかななんてことばかりを思ってしまう。そのうち、なんでわざわざ早く起きてこんなに大変なことをしているのだろういう気分にもなってくる。それに、この日向山はやたらと小さな虫が飛び回っていて、黒いバックパックを背負っている僕の周りにまとわりついてきて非常に鬱陶しくもあった。途中でそろそろ山頂かな?なんておもったら「登山道はここからです」みたいな雰囲気の看板があり、ここから本番か、、、、と気を引き締め直してまた山頂を目指して登りだす。山としては高い方ではないので、そこから一時間半くらい頑張って登れば山頂につく。綺麗な景色を求めてただひたすらに足を前に出していく。1/10-2/10-3/10と合目を表す看板が見える度に「あと少し、、、」と自分自身の気持ちに折り合いをつけながら黙々と歩を進める。「トレッキングポール持ってくればよかった、、」という後悔の気持ちもあったけれど、あとは気合でなんとか登っていく。

山頂付近に来ると、あたりの様子が少し変わる。これまで茶色だった地面が白い砂地に変わる。その白い砂でできた道を歩いていき森林地帯を抜けると急に視界が開き、眼の前に広がるのは海のような白い砂地、アルプス山脈の緑、そして抜けるような青空だった。その光景は圧巻で、あまりの凄さにしばし言葉を失うほどだった。綺麗だとか達成感だとかそういう感情は置き去りに、ただただ単純に驚嘆だった。あたりを見回しながらその光景の荘厳さと異世界のような感覚が現実的なものだと認識し始めたころ、達成感とある種の興奮を感じた。これまで感じていた疲労感はどこかに吹き飛び、自然と砂浜めがけて小走りで駆け寄っていった。砂地は斜面になっており、少し下って上を見上げると視界には白と青しか映らない。その感覚はかつてアメリカで砂丘にいったときの感覚に近い。自然の中で視界が青と白で満たされる瞬間はおそらくこういう場所に近づいたときしか味わえない。空と地面と自分の距離感が非常に近く、例えるならホドロフスキーの「エル・トポ」の砂漠のシーンのような感じで、これは砂浜にいるときの感覚とは全く異なり、シュールレアリスム的な印象すら抱いてしまう、それほどに非現実的な場所だった。視界を水平に向けると、視界を囲むようにアルプス山脈の山並みが広がる。その山々の山頂は自分がいるところよりも遥かに高い。1600m程度の山でこれだけ大変なのだとしたらこの山々を登るのはどれだけ大変なのだろうとゾッとした気持ちにもなる。特に3000m近い山は森林限界も越え、もう夏も始まろうかというのに山頂付近には雪がしっかりと残っている。自分が目指している山と、自分自身のレベルの差をとても感じた。

山頂付近で長めの休憩を取り、足早に山を下っていく。断続的な下り斜面のせいで足の踏ん張りが効かなくなり、何度も転びそうになる。無理に足を踏ん張ったりするせいで足の裏は水ぶくれがたくさんできてしまった。「早く温泉に入って帰りたい」という一心で、登ったときの1.3倍くらいのスピードでどんどんと山を降りていった。駐車場につく頃には疲れているはずなのに逆に元気が出ているような気がする、というか実際元気な気がする。体を拭いて着替えて、自動販売機でかったカルピスを飲むのだけれど、このときのカルピスは死ぬほど美味しく感じる。失われた水分とカロリーが一気に補充され、枯れた植物に水を与えるが如く体に力が漲ってくるような気がする。そして登山が終わるともうもはや頭の中には温泉に入ることしか考えられなくなる。だから、そのまま無心で温泉に向かい車を走らせる。もし今後テント泊登山なんかをしたら、二日目の朝は疲労と風呂に入りたさで頭が狂ってしまうのではないかと少し心配になりもした。温泉に入って体を休めると、その日と、おそらくそれ以前の疲れがどっと出てしまったようで、ふかふかとした座椅子に腰掛けるとそのまま眠ってしまった。その日の帰りの運転で大渋滞に巻き込まれたことを除けば、今回の山梨の旅は最高の体験になったと思う。できれば毎年この山々を目指して毎年訪れたい。自分の中でお気に入りの場所が日本にできてよかったと思う。