ESSAYS IN IDLENESS

 

 

American Boyfriend - Trip to Okinawa - Last Day

DSCF1447.JPG

この旅で一番いい宿だった安田リゾートホテルのベッドに別れを告げ、オンボロのバンを走らせて帰路につく。長かった旅ももう終わりかと思うと寂しい気持ちになるが、こんなに長い間移動をし続けたのは本当に久しぶりな気がする。安田から国道を下り南下を続け金武町という街に行く。特に目的はなかったが、キングタコスというタコライスで有名なタコス屋と、ゆんたく市場というゲットー感あふれる場所を見に行くためにふらりと寄り道をした。金武町自体が、かなり廃れた街であるということに驚いた。一見カラフルな町並みが飛び込んでくるが、軒並みすべて潰れていて、まともに営業をしているのは国道沿いの数件のカフェやなんやらと、キングタコスくらいなものだ。キングタコス自体はかなり繁盛しているようだったが、キングタコスが有名でなかったらこの街に訪れる人なんてほぼいないだろうと思う。レトロな看板やネオン、日本にはない色彩感覚で彩られた町並みが寂れきっている様子というのはある種退廃的な美しさを醸している。アメリカのスモールタウンとは少し違うが、似たような感覚を覚える。キングタコスのタコライスは実際のところ並んで食べる価値はある。野菜トッピングのタコスとのセットが非常に美味しい。お祭りの夜店の山盛りの焼きそばの如く、透明のタッパーが閉じないくらいに盛られた大量のキャベツ。そしてギュウギュウに敷き詰められた大量の米。絶対に食べきれないと思いきや普通に食べ切れてしまうのは、味が素朴で飽きないからだろうと思う。お腹がいっぱいになってから大通り沿いにあるカフェのテラスでお茶をしながら、米軍基地をフェンス越しに眺める。眼の前にはキャンプ・ハンセンがあり、奥では米軍の車が行ったり来たりしているのがみえた。横須賀のオープンベースに行ったときにも思ったが、アメリカ軍の基地というだけで、目の前に広がる景色や色彩が日本のものではないような気がしてくる。芝生の色やフェンスの色。建物のクリーム色の外壁や地面のコンクリートの色。それは「アメリカの雰囲気って、こんな感じだったよな」と懐かしい気持ちにさせてくれる大切な要素の一つでもあった。

そのあと2時間くらいゆっくりとドライブをしながら那覇を目指した。レンタカー屋に車を返し、飛行機に乗る前に晩御飯を食べることに。ローカル感のある居酒屋でここぞとばかりにご当地メニューを頼み、お腹を満たしていく。特にここまで触れてこなかったが、沖縄で一番好きな食べものはきっとジーマミー豆腐だと思う。そこまで安い品ではないが、2度も注文してしまった。その他、ヘチマの味噌煮や海ぶどう、島らっきょう、もずく。沖縄ならではの品々をたくさん食べた。国際通りの裏にある久茂地書店という名前の小さな居酒屋、名店の予感。

旅残すところ帰るだけとなり、本当の最後を迎える。名残惜しい気持ちもあるが、十分に沖縄を満喫できたとも思う。当初無計画すぎではと思われたこの旅も、振り返ってみればいい思い出ばかりだった。飛行機では眠れず、持ってきた本を読み返したり、美味しかったもの、素敵だった場所をノートに記録をして過ごした。沖縄にはこれまで自分は一度も行ったことがなく、勝手にアメリカっぽい場所だろうと思い、憧れの土地として思い続けていた。しかし、旅を終えて思うのはこれは自分の想像していた土地だったのだろうか、ということだった。森山大道が撮り、ミヤギフトシさんの作品に描かれ、そうした数々の作品に触れる中で醸成されたイメージとは違うものだったのだろうと思う。それが悪いかどうか、ということではなく自身の偏りのある情報が本来見るべき、感じるべき内容を薄めてしまったような気もしている。アメリカらしさというものを求めてここに来るのであれば、それは間違っていたのかもしれない。ここで、改めて「らしさ」という言葉について考える。アメリカという国はそのらしさそのもののように思えるが、果たしてそれが自分がかつて考えていたアメリカらしさだったかというと、疑問が残る。「らしさ」は断片であり、「らしい」ということはその断片がより精緻に組み合わされた状態なのかもしれない。突き詰めて考えると、その土地の持つ光景や文化をどれだけ細分化して、細かい断片を組み合わせ高い解像度で体感できるかということが、理解ができたということなのかもしれない。その断片を自分で組み合わせ、そこから立ち上がる光景や雰囲気を体感することができていれば、自分の勝手なイメージの押しつけで自身が訪れた場所を推し量るという不誠実な振る舞いも少しはマシになるのかもしれない、、、。沖縄とは、琉球王国だった文化とアメリカに統治されていた歴史が生み出した、どちらの要素も入り混じって変容した場所だ。かつて沖縄の人たちが味わってきた気持ち、戦ってきた歴史、そうした側面もできる限り理解できるように寄り添い、思慮深く旅をしていきたいものだと思う。でも、そうすると旅に必要な時間が100倍くらい必要になりそうな気もしている。来月もひょんなことから沖縄に行くことになっているけれど、たぶん絶対にホテルから出ずに一生寝ていると思う。

hiroshi ujiietravel