ESSAYS IN IDLENESS

 

 

American Boyfriend - Trip to Okinawa - Day 6

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最高だった北谷の街を出て、ここから沖縄本島最北部の辺戸岬を目指して車を走らせる。人というのは島を訪れると何故かとにかく一周したくなってしまう気がするが、それは人類のDNAに刻まれた何かの仕組みのような気がしてならない。道中、基地のフリマをちら見してから、ストイックに58号線を北上していく。道も空いているし、何よりシーサイドラインの景色が美しくドライブをしていて全く飽きない。道中のA&Wで休憩をし、海を眺めながら更に北上を続けていく。沖縄の北部に行くとほとんどご飯を食べられる場所もなくなるし、コンビニもなくなる。途中で「沖縄本島最北のファミリーマート」の看板が立っていたのを見かけたから間違いないだろう。そんな折、辺戸岬へ行く途中の最後の集落で出会った蕎麦屋が最高だった。名前を「入門屋」といい、見た目は普通の民家で営まれたソーキそば屋だ。入り口に置いてあるオリオンビールの看板でその店が目的の店だとわかったのだが、どう見ても集落の中の一角の普通の家。沖縄の伝統的な平屋造りの客間、そして庭に客席があるのだがその開放感が素晴らしい。沖縄の美しい空の下で、青々としげる南国の植物や花を見ていると自然の持つ本来の色の美しさを強く感じる。広すぎもせず、狭くもない、ちょうどいい大きさ庭。その中一角に大きくて素朴な木のテーブルが置いてある。強い日差しを避けられるように屋根が設置されており、日陰に通る風がとても気持がよい。何よりこの最高の環境でタバコを吸えるというのが最高だ。ひだまりで飼い猫が自由にゴロゴロと寝転がったり、蝶々を追いかけたりしているのを眺めているだけで心が和んでいく。この店の素晴らしいところはこうした席を気を利かせて笑顔でアテンドしてくれる老夫婦の店員だ。言葉の節々からも節度や優しさが感じられ、表情は常ににこやかだった。ソーキそばはというと、これまで食べた味とはまた違う風味で(おそらく出汁が違うのだろう)、非常に美味しかった。端的にいうと天国のような店だった。きっと行けばわかるはず。

そこから数十分車を北に走らせれば、あっという間に辺戸岬へとたどり着く。断崖から見下ろす砂浜や海岸線を見ていると、昨年見ていた西海岸の1号線や、オレゴンコーストを思い出した。スケール感的には1/10000くらいなのだけれど、強く吹く風や切り立った岩石の様子がどこか似ていたのだろう。明らかに危ないと思われる崖の淵に柵や立入禁止の看板がなく、ご自由に自己責任で死ねる、というところもアメリカっぽくて良いと思う。

沖縄の最北から東側へと下っていき、森の中を抜けていく。「ヤンバルクイナ注意」の看板をいくつも見かけたがまさか実際に目の前をトコトコと歩くヤンバルクイナを見かけるとは。この道に信号は一つもなく、アップダウンの激しい山道だった。オンボロのバンのエンジンが、アクセルベタ踏みのために唸りを上げ続けた。しばらくそのまま道を進み、予約していたホテルのある安田という名前の海沿いの小さな集落にたどり着く。街の中には商店が一つ、公民館が一つ、1,2件の民宿があるかなり小さな村だった。ひっそりとした街の中を歩いても、人とすれ違うことは稀だ。ホテルにチェックインした際に壁に書かれていた注意書きには「集落の人にカメラを向けないでください」と書かれていた。観光気分でたまに訪れる人達に物珍しい生き物として村の人々が捉えられたなら、それは不快だろう。自分が人々にそういう思いをさせないようにと、カメラをカバンの中にしまって集落を少し歩いて周り、そのまま海岸へといった。アラハビーチなどと違い北西部の海はかなり人が少ない。車を止める場所もなく、入り口も鬱蒼とした植物の隙間にできた道から少し入ったところにあった。秘境感のあるこの海岸線、そして入江は心なしかムーンライズ・キングダム感がある。夜まで待っていたらウミガメが上陸して産卵でも始めるんじゃないかと思うくらい静かで、人の少ない海だった。

この安田という街の近くには夜ご飯を食べられる場所がないということで、山を渡って西側の集落まで30分くらいかけて行き、ヤマカワ軒という名前の中華で死ぬほどマッシブな定食を食べた。調子に乗って餃子まで注文してしまったが完全に蛇足だった。膨れた腹のまま、また海へと行って堤防に寝転がりながら空に広がる星空をしばらく眺めた。隣では夜釣りの釣り竿を垂らしている人や、夜の海ではしゃぎ泳ぎ回る若いカップルの姿があった。自分の目がなれてくると、空にたくさんの星が輝いているのが徐々に分かるようになってくる。都会とは比べ物にならない空の広さと夜の暗さ、そして星の明るさを感じる。自分の生活がいかにこうした自然的なもの、本来当たり前にあるべき風景から離れてしまっているのかを実感してした。その腹いせに昼に行った最高の蕎麦屋に渾身の口コミを投稿してから眠りについた。

hiroshi ujiietravel