ESSAYS IN IDLENESS

 

 

SEE EVERYTHING ONCE / TRIP TO SOUTHERN DAY39

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チューバシティというモニュメントバレーから1時間ほど下った街のトラックストップで車中泊をしていた。この街の住人は殆どがネイティブアメリカンの血が入っているのではないかと思うくらい、純粋な白人を見かけることはなかった。朝起きて近くのマクドナルドに朝ごはんを買いに行く途中に誰もいない、ガランとしたスケートパークを見つけた。僕が車から降りてそのあたりを見回っているとちょうど日の出の時刻になり、朝焼けの美しい光がゴミで散らかる無人のスケートパークを照らしていた。

砂漠のドライブは夕方でも、朝焼けでも信じられないくらいに美しい。青白い砂、赤と青がグラデーションになっている岩山、ぽつぽつと生える荒れ地の植物。まっすぐな道をひたすらに下りながら、自分の好きな曲をかけて進んでいく。以前行けなかったグランドキャニオンに向かうためだった。グランドキャニオンにはサウスリムとノースリムという2つの入口があり、大抵の観光客がいくのがサウスリムと呼ばれる方だ。アリゾナ州フェニックスから車で数時間でアクセスできるため観光がし易いというのが理由なのだけれど、僕はグランドキャニオンの北側からアプローチしているから必然的にノースリムへと向かうことになる。意外と近いだろうと高をくくっていたものの、ノースリムの近くまでいくのには4時間以上も費やした。途中チペワ国立公園という別のナショナルパークを通り過ぎ、コロラドリバーを跨ぎ、ハンティングに精を出すたくさんのハンターたちを脇目に見ながら、狭い山道を進んでいく。ガソリンのなくなるスピードも早く、自分が目的地に無事辿り着けるかどうか不安だった。結果から言えば、僕はノースリムまでは行くことができなかった。その理由は、12月に入るとノースリム付近へのアクセスが冬季閉鎖により禁止されるからだった。道のど真ん中に置かれた電光掲示板を見て絶望に暮れていると「お前もか」という感じでネイティブアメリカンのおじさんが話しかけてきた。せっかくなのでその近くにあったビジターセンターに入り、併設された素敵なダイナーで朝ごはんを食べることにした。「やっぱりノースリムにはアクセス出来ないのでしょうか?」と聞くと「残念だけど、そうなんだ」「僕、わざわざポートランドから車で来たんだけど」「それは本当に残念だったね、、、」という会話をウェイターの優しそうなお兄さんとした結果、注文したパンケーキにビスケットをおまけしてもらうことができたのだが、僕の悲しみはそれだけでは癒やされるはずもなかった。でもその優しさがとても嬉しかった。出されたパンケーキやカリカリに焼けたベーコン、そしてコーヒーにビスケットはとても美味しかったし、お腹がはち切れるくらいに多かった。ノースリムが見に行けなくなったことが確定的になり手持ち無沙汰になったので、隣に座っていた二人のミリタリーウェアを着たいかつい二人組に話しかけてみる。

「どこから来たんですか?」「俺は隣のユタ州なんだけど、生まれはメキシコだな」
「ノースリムがやってなくてとても残念です」「それは災難だったな、、、そうだ、そのかわりに俺が今朝ハントした鹿を見せてやるからコッチに来な!」

マッシブな朝飯をいとも簡単に平らげる恰幅のいい二人組はハンターで、この日も狩りをしにグランドキャニオンへと訪れていた。彼らいわくグランドキャニオンは世界でも有数のハンティングスポットらしく、シーズンになると全米、全世界からハンターが集まる場所だそうだ。道すがらやけにハンターを見かけた理由がわかった。彼らは自慢げにアフリカにいって狩りをしたときの写真や、アラスカで巨大なカリブーを捕まえた時の写真を見せながら「俺は殺しすぎないようにアーチェリーを使う派なんだよ、ガッハッハ!」と大声で笑っていた。そのやり取りがひとしきり終わったあと彼の車に近づく。しかし鹿の姿は見えなかった。「鹿はこれだよ!」と言って彼がピックアップトラックの荷台から取り出したのは鹿の頭部だった。口と鼻、そして切られた首からはまだ深い赤色の血がポタポタと滴る。眼は力なく開いたまま、灰色に曇り始めていた。角を両手で掴んで笑顔で微笑む彼。「俺は狩りをするけど、余すところなく食うよ。生命に対する敬意を忘れないために」と彼は言った。(それと同時に、仕留めた時の腹の底からの勝利の雄叫びも聞こえる気がした)それを聴いたところでこっちとしては複雑な気持ちだ。スポーツ感覚で生命を奪っていることには変わりはないと思ったからだ。僕だって釣りをして魚を捕まえて食べたり潮干狩りをして貝を食べたりする。それとこの狩りという行為がどれくらい違うのか、ということに思いを巡らせていたけれどこの時に答えは出すことができなかった。彼いわく、仕留めた後の処理は早く、できるだけ苦しまないように動物に対して配慮をするそうだ。そういうやり方があるらしい。この鹿の首の切断面をみても彼らのその処理の腕前が下手ではないことがわかる。朝から非常にショッキングなものを見てしまったけれど、わざわざ入れもしないグランドキャニオンの近くまできた甲斐はあったような気がした。

そこから以前立ち寄ったホースシューベンドやパウエル湖に立ち寄ったけれど相変わらず綺麗で、ちょうど一年前もこのあたりに来たことを思いだした。その時も暑かったけれど、この日も暑くて、そして相変わらず観光客はアジアからきた人たちしかいなくて、皆一様にセルフィーを一生懸命に撮っているところだった。どうかホースシューベンドに落ちて死なないで欲しいと思う。(※実際に毎年何人か落ちて死んでいるらしい)

アリゾナ州にはコロラドシティと言う街があるのだけれど、その街にあったガススタンドでハンバーガーを食べた。そのメニュー表を見て、もう一度見て、思わず笑ってしまってその写真を撮った。

■CHICKEN BURGERS
M16
Musket
Glock
■OTHER OPTIONS
BB Gun
Pellet Gun
Paint Gun
Mossberg
Springfield
...
■HAMBURGER
Beretta
Colt
Ruger
Smith & Wesson
Winchester
Magnum
Derringer
Remington
■SIDE ORDER
22 Caliber
270 Caliber
AK-47
….

そう、全てのハンバーガーの名前が銃の名前になっていた。すぐにアメリカ人の友達にそのことを連絡したら「典型的なアメリカの田舎ね!」と言いながら笑っていたのだけれど、こんなに典型的な例もそうないだろう。(※ちなみにその子のお父さんが銃の愛好家らしく、そのことを話したらお礼にすごく貴重なメダルを貰った)。僕はその中で一番肉厚らしかった「デリンジャー」を頼んだ。バーガーのメニューの脇にはホットドッグのメニューがあったのだけれど、、

■SANDWICHES
Buffalo Bill Cody
Geronimo
Sitting Bull
Billy the Kid
Crazy Horse
Wyatt Earp
...
■HOT SANDWICHES
Butch Cassidy
Sundance the Kid
Jesse James
...
■SALADS
Annie Oakley
Calamity Jane

ちなみにピザの名前はというと、、、
■PIZZA
Decaprio
Assante
De Niro
Esteves
Travolta
Pacino
Stallone

どれだけガンマンがすきなんだ!これを見たあとに「ホットサンドにすればよかった、、、」という思いになったけれど、結果的に言えばデリンジャーバーガーはめちゃくちゃ美味しかったし、なんなら今まで食べたハンバーガーの中でも一番に美味しかったように感じた。あまりの旨さにガンパウダーが調味料として入っているのではないかと(火薬は麻薬に似たような効果があるらしい)思うほどだった。まさかここでブッチとキッドに会うことになるとは全く想像もしていなかっただけにとても印象に残る出来事になった。ただのガソリンスタンドの隣りにあるキオスクでこんなにユニークなハンバーガーに出会えるなんて、そしてこんな形で映画や文化が生かされているなんて、アメリカという国は本当に最高だなと思う。スタローンという名前のピザを頼んだら生卵が死ぬほどのせられていたり、プロテインがぶっかけられていたりするのだろうかとか無駄に想像が膨らむ。日本で言えば、鎌倉のとあるしけた定食屋で「秋刀魚の味」なる小津安二郎にインスパイアされた焼き魚定食があるのかということなんだけれど、きっとないと思う。アメリカを旅してだいぶ立つけれど、食べたものでこんなに笑ったのは初めてかもしれない。

その後ネバダ州へと車を走らせて郊外の廃れた街をいくつか通り過ぎる。ネバダ州のドライブは本当にナーバスに鳴るのだけれど、平気で「次のガススタンドまで100マイル!」と書かれた看板が立っていてガス欠の心配があるからだ。スペアタンクを持ち歩いていない身としては常にその恐怖と戦っていかなければならない。ただその恐怖を乗り越えた先にはゴールドラッシュや西部開拓時代のころから忘れ去られたような、昔の雰囲気の残る美しい街並みが見れたりする。メスキートというネバダの街に着き、モーテルのサインなどを写真に撮っていた。街の中心にある大きなカジノはものすごく盛況だった。更にそこから進みリバーサイドという場所にいくと、荒野に光る満月が見えた。町外れの荒野の道路脇で休んでいる時に、なにか物音がした。耳を済ますとなにかしらの動物の足音だった。日が沈みかけた薄闇の中から白い牛の群れがでてきた。牛は僕に気づくと歩みをピタリと止める。僕はその牛を刺激しないように静かに距離を取る。5分ほどにらみ合いが続いたあと、先頭の牛は踵を返して彼の仲間を率いてまたどこかへとゆっくり歩いて消えていった。薄闇から現れた白い牛の群れは神々しい美しさを放っていて、普段牧場や路上に放牧されている牛たちを見るときとは全く違う印象だった。何もない場所でこんなに素晴らしい風景に出会えるなんて思ってもみなかっただけに、その感動は大きなものだった。

そこから更に進むと現れるのがネバダで一番有名な街、ラスベガスだった。ラスベガスはネバダの平地部分にできた街であることはドライブをしている時にわかった。リバーサイドの街から西へとドライブをしてくるとちょうどラスベガスを見下ろすような形で街に近づくのだが、地平線の向こうからまばゆい光を放つ光の海が見える。地平線いっぱいに広がる街の灯りはまるで宝石箱のように思える。前回の旅でネバダのリノという大きな街を見た時にも同じように感じたけれど、その何倍もの光が視界の先に散りばめられていた。ゆっくりとラスベガスへと近づき街の中へと入っていく。道路は広かったが街灯の間隔が空きすぎていて意外と暗い。どうやらあのラスベガスのイメージは中心部だけのようだ。その広い道路の各所で道路工事が行われているものだから、暗いしサインもろくに見えないしで非常にナーバスになるドライブだった。案の定、街のいたるところで交通事故が起きていて(少なくとも4件くらいは起きてる)、街の中心は渋滞だらけだった。やっとのことで中心部につくと、そこは本当の異世界だった。信じられないくらいに豪華なホテル、自由の女神、エッフェル塔、レーザー光線に、ギラギラと輝くネオン。超がつくほど大規模なカジノが何軒も並んでいる。道路は大渋滞で、僕のとなりには爆音でヒップホップを流すクラシックカーや、The白人といった装いのカップルの乗ったスーパーカーが信号待ちをしている。夜は深夜を回ろうとしている時間なのに、歩道にはドレッシーな格好をした紳士や、セクシーでラグジュアリーな格好をした女性がわんさかと歩いている。彼らはここでつい先日銃による大量殺人事件があったことを覚えているのだろうか?そんなことは他人事であるかのようにラスベガスの夜を楽しむ人達で溢れかえっていた。その人の波につかれ、少し中心から外れたところに車を停めて休憩しているとあたりはマリファナ臭いし、危なそうな人はうろついているし心を休める場所はどこにもないようだった。間違いなくこの街は何かが麻痺しているし、そして圧倒的にスケール感の違うぶっ飛び具合だった。今まで訪れた街の中ではダントツに狂っている。少し中心を外れると高架下にはホームレスやジャンキーのような人たちがたむろしていて治安もよくなさそうに見える。寝床をもとめてラスベガスから少し離れたところにあるトラックストップに車を停めて一休みしていると、誰かがドアをノックしてきた。ついに警官に補導されるのか、、、とナーバスになっていたら、それは白人の娼婦だった。僕にとってはそれが衝撃的すぎて、ただ「I don't want to...」としか言えなかったのだけれど、彼女は僕がまともに話せなさそうなことを悟るとすぐに別の車のところへと歩いていった。手にタオルや小さなバッグを持ち、車の窓をノックし、ドライバーと話す。そんなことを繰り返すうちにとあるトラックドライバーの運転席に彼女は上がり込んでいった。これがラスベガスと言う街の影なのだろうと思う。この日見たこと、起きたことの落差は人生で一番大きかったかもしれない。アリゾナの美しい風景に、ラスベガスのどぎつい狂った町並み。コロラドシティの素晴らしいユーモアに鹿の生首、そして娼婦との出会い。どれも忘れることはできない体験であることは間違いないけれど、その多くは今後も消化できそうにないものだと思う。

hiroshi ujiietravel