SEE EVERYTHING ONCE -DAY6-
朝アトキンスの病院の裏手で目を覚ます。昨晩の腹痛は急な腹痛に苛まれ、トイレがない場所で寝るのが不安だなということを学んだ。スリーピングバイミシシッピ、という名前の通りの状況だったけれどその実写真集のイメージとはかけ離れたことをしてしまった。夜中はだいぶ寒かったみたいで、朝起きると身体が硬直していたので、寝袋に入ってもう一眠り。まだ9月になったばかりなのに、アメリカの北部はすでに秋も深まってきているということだろうか。二度寝の末、9時前に目が覚め、そろそろということで車を出す。ガソリンスタンドに入り顔を洗って歯を磨き、リンゴとバナナをかじる。眠気覚ましに車内でかみ続けたビーフジャーキーはもうなくなってしまった。
今日はミシシッピ川にそって南下、そしてルート61を通ってウィスコンシンに入る。ミシシッピ川の流れは雄大で、どこでも美しい川の流れをみることができた。南下するほどに街が大きく、豪華に、華やかになっていく。ミネソタ州の州都、ミネアポリスやその隣の大都市セントポールに近づいているせいだ。ミシシッピ川に沿って文化や経済が発展していったことが目に見えてわかるのは面白かった。都市部のミシシッピ川沿いの家庭はどこもお金を持っていそうだし、実際ボートやキャンパーの所有率が高い。クラシックカーやバイクツーリングの人たちにも千人以上にはあった気がする。タンデムで颯爽と走り抜けるのはおじさんおばさんたちばかりで、裕福なリタイア組のリゾートがミシシッピ川流域なのかもしれない。
ハイウェイ61をくだりながら、ボブディランをきく。彼がイメージしたのはこの景色だったのだろうか。左手にミシシッピ川を眺めながらのドライブは確かに気持ちが良かったけれど、なんとなくだけれどもう少し寂れた風景というのを勝手に想像していた。そのまま61号線をくだっていくと、レッドウイングという名前の街に着く。もちろんここはあのブーツで有名なレッドウイングという会社のある町だ。ミシシッピ川の側にはたくさんの人やボートやヨット、そして大きなタンカーが停まっている。更に南下し、ウィノナという街を通り過ぎるとき、ちょうどあたりは夕暮れの時間帯だった。車を停めて何も考えずに夕焼けをみている時間は、旅の中の楽しみの一つだった。都市から離れて一人旅をしているとどうしてか知らないけれど、森や川、湖や海に近づいていってしまう。路側帯に車を寄せて、川に寄っていき、手近な岩に腰を下ろす。川に映る夕日が黄金色から赤橙色にゆっくりと変わっていく。夏は日が長くていい。時間をかけていろいろなところを回れるし、こうしてゆったりと静かに佇む時間を持つことができるから。車内の時計を見ると、iPhoneの時間と時間のずれが生じている。ポートランドからだいぶ進んできて、時差の変更線を超えてしまっていたようだ。だいぶ遠くまで来たものだと自分でも思う。しかしこんなに進んでもまだ、この旅は全体の1/6しか進んでいなかった。アメリカはすべてが桁違いに大きく、広い。目に映るモノすべてがはるか遠くにあるように感じられた。
さすがに今日はモーテルを取ろう、そう思ってウィスコンシン州に入ったあたりでモーテルに入った。ヨ・ラ・テンゴの歌にも出てくるモーテル6。アメリカのどこにでもあるモーテル。そこからの眺めは、マクドナルドやパンダエクスプレスの看板が目につく、当たり前の郊外の風景だった。