ESSAYS IN IDLENESS

 

 

SEE EVERYTHING ONCE -DAY4- 

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ウィリンストンの駐車場で眼を覚ますと雨は既に上がっていて、湿気た空気が朝の街を満たしていた。朝日を見ながら背伸びをした後、そそくさと街を出る。ノースダコタの田舎道を更に東へ。どこともなく東へと向かう。この州について知っていることといえばこの州の西の端にはファーゴという街があり、そこはコーエン兄弟のファーゴという映画及びTVシリーズの舞台となった街ということだけだった。走っても走っても牧草地帯。曇りがちな空に青々と茂る牧草。時折見える道路脇のスモールタウンには給水塔や大きなタンクや牛舎が見える。アメリカ人の中でもノースダコタ州がどこにあるのかわからない人もいるという話はよく言われるジョークらしいのだけれど、それほど特色のない州ということだろうか。

 

疲れたなとおもったところで小さな街の一つに入るとそこにはウォーカー・エバンスの写真に出てきそうな佇まいの木造のバーが一件あった。その小さな街はペンといい、そこでコーラを飲みながら休憩する。するとハットを被ったたくましい髭を生やしたおじさんがピックアップトラックから降りてこちらに近づいてきた。軽く挨拶すると「よ!どこからきたんだい?」と声をかけてきたので少しばかり世間話をする。立ち話もなんなのでということで開店前のバー入れてもらい、ちょっとだけ話しをした。「このバーは1864年にだいぶ前の持ち主が200ドルで買ったもの。その際にこのあたりの200エーカーの土地も一緒に買ったんだ。自分は5年前に前の持ち主から譲り受けてこの店を運営してるけど、まさかこの歳になってバーのオーナーになるなんて思っていなかった。」とのことだった。「この街にかつて住んでいた息子は都市に行って出会ったアバズレと結婚して出て行っちまったんだ!」と嘆く親父さんだったが、今はこの店を切り盛りすることがだいぶ楽しいらしい。「今日はステーキナイトだから、夜になったらこれでもかってくらいステーキを振る舞うんだ。この小さな店をなんとかしても広めていかないといけないからな」強い視線の中にも優しさが感じられる親父さんの瞳は綺麗に輝いていて、そういえばアメリカの田舎に住む人とこんなに長く話すのは初めてだなということに気がついた。店内は外見に比べてしっかりとしていて、アメリカの古き良きバー然とした印象だった。スロットマシン数台と、奥にはビリヤード台。チェックのテーブルクロスの上には塩コショウとケチャップ。外から見ると狭そうだが40人以上は入れそうで、このおじさん一人でこの店を切り盛りするには大きすぎないかということと、この店がお客さんで満たされることはあるのだろうかとも思う。最後に親父さんの写真を撮らせてもらって店を出る。ポートレイトはほとんど撮る趣味はないのだけれど、なんだかこのおじさんの顔は覚えておきたかったのかもしれない。「長いドライブ気をつけてな!」と挨拶され、気持ちよくこの村を出ていった。ペンという小さな村だった。

 

その後、更に東へ進む。デビルレイクという名前の湖の周りをぐるりと回り、湖沿いの気持ちのよいドライブウェイを暫く走る。そこからグランドフォークという少し大きめの街を通り南下、ファーゴまでなんとか日没前に辿り着く。映画のイメージだとなんとなく廃れ気味の街かと思っていたけれどそうではなく、様々な人種がひしめき合う活気のある地方都市だった。ただ、警察官のパトロールの数がかなり多いことと、ダウンタウンにホームレスが多いことを見て取ると治安のいい街であるとは言えないだろう。そしてこの街のホームレスはネイティブアメリカンの人たちがかなりの割合を占めていたような印象だった。念願のファーゴシアターを見てみるも、取り立てて何をしていいかわからない。こうした中規模の都市というのはロードトリップにおいて気の置けないところがあるのに気付いたのはこの時だった。大都市のように腰を据えて何かできるというわけではなく、スモールタウンのように車から出て徒歩で探るということもしにくい。加えて治安の面から車を長時間放置しておくことも、貴重品を首からぶら下げて危なそうな地域に分け入っていくのもそこまで進んでできることではないだろう。だから、なぜだかわからないけれどすぐに車を走らせたくなってしまうのだ。東へ、東へと誰かに耳元でささやかれているかのように。コーヒーの一杯でも、サンドイッチの一つでも店で食べればいいのに、それよりも先に進みたいという気持ちになってしまう。この街の郊外のゲットー感は相当なもので、ある程度発展しているというのにボロボロに崩れた建物がかなりの割合で眼についた。そういう光景が夕日に染まるのは非常に美しいのだけれども、路上駐車も多くてなかなか撮影が難しい。この日はデトロイトレイクという名前の湖沿いのリゾートに深夜にたどり着き、その街の病院で眠ることになった。夜遅くまで空いているガススタンドのキオスクで歯を磨いて顔を洗い、何も買わずに出ていったのでカウンターの強面のおじさんに少し睨みつけられつつ、旅の端は書捨てということでそのまま病院の裏手に向かってひっそりと行きを潜めて眠りについた。そろそろ風呂に入らないと、自分自身で身体の臭いに耐えられそうになかった。

hiroshi ujiietravel