ESSAYS IN IDLENESS

 

 

SEE EVERYTHING ONCE -DAY3-

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グレートフォールズのカジノで眼を覚ますと辺りにはまだまだとんでもない大きさのトラックがいくつも停まっている。一体彼らは何時間このカジノで粘るのか、そんなことを考えながらモンタナの風に吹かれつつ、朝イチのコーラを流し込む。適度な刺激と爆発的な糖分、そして申し訳程度のカフェインが自分の意識を活性化させていく。地図に目的地をセットしたらその日の旅のスタートを切ることができる。グレートフォールズには小さな空港があり、小型の飛行機や軍用機が展示されている。東へと向かう前にグレートフォールズの街を少しだけ回って写真を撮った。ハイウェイに乗りどんどんと東へと進む。ビーバーテイル、ディアーロッジ、ベアマウスと動物の名前の地名が多く、道路脇のサインを見るのがちょっとだけ楽しくなる。そしてこの日の最初の目的地はウルフポイントと言う場所でミズーリ川の最上流がある湖だった。そしてその近くにはネイティブアメリカンの大きなリザベーションもある。

 

アメリカをドライブしていると目にするものの一つにパンクしたタイヤがある。そしてもう一つがロードキルと呼ばれる動物の轢死体である。モンタナの自然はアメリカの中でも雄大な部類に入る。そしてそれはつまり動物の数が非常に豊富ということであり、つまるところ物凄い数のロードキルを目撃してしまったということだ。子鹿や狸のような生物。アライグマや小さい狐のようなものから鳥まで様々。そして街の近くにいくとカラスがその路上に血を出しながら横たわっている動物の屍肉を喋んでいる。日本ではこうした光景を目の当たりにすることは非常に稀だけれど、アメリカではごく一般的な光景なんだろうと思える。ハイウェイを降りてから、ローカルな道に乗り換えモンタナを少し北上していくとやたらと眺めのいい田舎道に出た。道路脇は畑と砂漠が交互に繰り返していて、道は何十マイル先まで見渡せそうなくらいまっすぐだ。道の脇にヒストリックポイントと書かれたサインがあったので車を停めてみてみると、どうやらこの道はルイス・アンド・クラーク探検隊によって発見された道らしい。あとから調べたところ昨日通ったクリアウォーター側も、そして僕が暮らしているポートランドも、そこから見えるフッド山も、ルイス・アンド・クラーク探検隊によって発見されたものらしかった。なぜこのような偶然が僕の旅で起こったのかわからないけれど、アメリカを作った彼らの道を200年以上も経った今、車で逆に辿っていたという事実が嬉しかった。その当時彼らはジェファソン大統領の命を受けてミズーリ川の最上流から太平洋へと向かった。その探検隊の構成メンバーは音楽家やハンターを含む40人以上の大規模編成だった。それから200年経って、なんの知識もない英語もままならないアジア人が車で同じ道を走れるようになっているのだから、時代の進化というのはこうした偶然のめぐり合わせを生み出すのかもしれない。その最初のヒストリックポイントはアリゾナのホースシューベンドを思わせるような壮観な岩場と河川が織りなす眺めで、暫くそこで煙草をふかしながら英語で書かれた解説文を四苦八苦しながら読んでいた。僕の隣に乗り付けて来たビジネスマンのおじさんも新聞を読んで煙草をふかしながらゆったりとしていて、こんな場所で仕事サボれたら本望だろうなと勝手に心の中で思っていた。

 

途中途中のスモールタウンを通り過ぎ、写真を撮るために車を降りる。どれだけ小さな街にもカジノはあるのが驚きだった。その途中サコと言う名前のスモールタウンを通り過ぎる、廃れたモーテルや廃屋とかしたホテルがある、絵に描いたようなスモールタウンだった。その色彩、モーテルの看板やレンガに書かれたほぼ消えかけたペイントがエグルストンの写真のように見えたのだった。そのサコと言う街でひとしきり写真を撮ったあと、更に東へと向かう。グラスゴーというイギリスにある街の名前を冠した少し大きめな街のマクドナルドで休憩したら、フォートベックというミズーリ川の最上流にある湖のある街に向かう。フォートベックレイクは非常に大きく少し小高い丘の上から水を眺めても向こう岸は全く見えない。湖の周りはキャンピングリゾートになっていて、オフシーズンなのか宿泊客は一人もいない。全く音もなく、静かな風が湖に向かって吹く穏やかな空間だった。湖にはその風によって起きる小さな小さな波が静かに岸に寄せている。湖の水は綺麗なエメラルドグリーンで、遠くは水蒸気で霞がかった幻想的な空間だった。湖沿いにまばらに生えたか細い植物たち。この風景はなんだかタルコフスキーの映画にでも出てきそうだと思いながら、湖とそのあたりの写真を撮っていた。湖の周りを少しドライブしていると、小さな街をみつけ、そこでガスを入れたりしながら足早に更に東へと進んでいく。モンタナ州は全米の州の中で最も東西に長い(1040km)ということもあり、一日で進み切るのはなかなか難しい。少し東へと進むとフォートベックインディアンリザベーションという場所があり、そのあたりの街にいくつかよってみた。その中でもポプラーという街で、インディアンリザベーションの本当の姿を見たような気がした。そもそもネイティブアメリカンの人たちはそのリザベーションの中だけで暮らしているのかと思ったらそうではなく、その一帯ということなのだろうと思う。

 

ポプラーというこの街に暮らしていたのは殆どがネイティブアメリカンの人たちのように見えた。道路はコンクリートが剥がれきってガタガタ、建物はボロボロでシャッターが閉じられているものがほとんど。明るい雰囲気はまったくない。打ち捨てられた小さなガスステーションの壁には「Vote For XXXX」のようなスプレーで書かれた張り紙が乱雑に貼り付けられている。街を歩いている人たちも心なしか少し危なげに見えてきてしまうのは偏見なのだろうか?住宅街へと車を走らせると、どんよりとした雰囲気の中にとっちらかった庭がいくつも広がっていたり、壊れかけたトレーラーが並んでいたりする。こういう荒涼とした環境で育っているのがネイティブアメリカンの人たちの姿なのだと、その時に気づくことができた。この街で唯一賑わっていたところはやはりカジノで、ボロボロのピックアップトラックが次々と乗り付けてはカジノの灯りの下に車を停めていった。僕の知るアメリカとは違う側面を見つつ、更にそこから東へと向かうともうノースダコタとの州境に差し掛かる。視線の先には豪雨と雷雲が見え、それが夕暮れに染まっていくさまは綺麗だった。道の両脇には青々と茂る牧草地体が広がっていて、黄金色の陽光を受けて輝く畑は綺麗だった。何度か道路脇に車を停めては写真を撮るが、自分が目の前に見えるとんでもない暗雲立ち込めるエリアに進んでいっていることに若干の恐怖を覚える。窓をあけると雷鳴が聞こえるし、暫く空を眺めていたらたくさんの稲光が高い鉄塔に向かって落ちているのが見えた。日もだいぶ沈んだ頃、モンタナを出てノースダコタへとついた。ノースダコタ州境に設置されたウェウカムのサインはグラフィティアートのようでかっこよかった。ひとまず一番近くにあるウィリストンという大きめの街を目指して車を走らせた。しかしここがまさに嵐の中心地とでも言わんばかりの量の雨が窓ガラスを打ち付ける。パウンディングレインとはまさにこのことで、打ち付ける雨の粒の大きさと量が圧倒的すぎて何も見えない。ワイパーを最大速で動かしても、そのワイパーが邪魔すぎて視界が悪くなる。そんな折ウィリンストンの街へと入っていく時に道路工事が大量に相次ぎ道路がまったく見えなくなる。視界の端に現れては消えるオレンジのポールや雨でほとんど何が書いてあるのかわからない道路脇のサインなんかはもはや不安を煽ることしかない。セットしたナビゲーションもまったく役に立たず、眼を血走らせながら対向車や車線に注意し(逆走が一番怖い)、街の中へと進んでいった。やたらとラウンドアバウトが多く、もはや自分がどちらの方向に向かっているのかもわからない。やっとたどり着いた何処とも知らないホテルの裏手に車を停めて、頼むから警察よ僕を見つけないでくれと祈りながら、叩きつける豪雨の音を聴きながら眠りについた。

hiroshi ujiietravel