ESSAYS IN IDLENESS

 

 

SEE EVERYTHING ONCE / TRIP TO SOUTHERN DAY7

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アメリカを旅するにあたっての楽しみは各地の古着屋やリサイクルセンターを見ることにもある。特にGOODWILLにはこれまででも何度かいった。LAで泊まったビバリーローレルモーターインの側にも、サウザンドオークスのモーテル6の近くにもGOODWILLはあった。日本では考えられないくらい安価に服や雑貨を買うことができるので、モーテルの近くにGOODWILLがあれば必ず立ち寄っていた。誰が売ったのかもわからないカセットテープや(あとから再生したらアラスカ旅行の思いでをどこかのおじさんが吹き込んで録音していたらしい)、誰かのサインか何かが書かれた古びや野球ボール(売って良いのか)、古い素敵な写真が組み込まれた額縁とか、色々なものが売っている。LAを経つことになるこの日は、フェアファクスという地区の古着屋を巡ってからパームスプリングスへと行くことにした。通りを歩きながらめぼしい店を見て回っていると浅倉が急に「クエストラブがいる!」と言った。The Rootsのドラマーがこんなところにいるはずないだろと思い、彼の目線を追ってみると大きな図体の黒人の男性がいた。大きなアフロヘア、パツパツのジャケット、ジャケットのポケットには櫛が、逆側の胸にはクエストラブのトレードマークのハートマーク、そして手にはドラムスティック。どう考えても出来すぎだろ!とおもったけれど今日は10月31日、そうハロウィンだった。The RootsのクエストラブTシャツを着た彼はハロウィンでクエストラブのコスプレをしていたのだった。浅倉が「クエストラブですか?」と聞いたら恥ずかしそうに「わかる?」と嬉しそうに答えていたのがとても可愛かった。彼のことをよく観察していると、どうやら車椅子や松葉杖をついた子どもたちと一緒にいるようだった。おそらく養護学校の先生なのだろうか?ハロウィンにクエストラブのコスプレをして子どもたちと一緒にLAを歩いてくれる、こんな素敵な先生が世の中に存在して良いのだろうかと胸が暖かくなる。店から出たところで一緒に写真を撮ってハロウィンの最高の思い出が出来てうれしくなった。

パームスプリングスは老人のリゾートと呼ばれる街らしい。しかし建築を嗜む人間からすると全米でも屈指の名建築が集まる街になる。この街に立ち寄ることについては武知の悲願であり、この旅には欠くことのできない行程だった。パームスプリングスへと近づくにつれて徐々に都市の風景が砂漠の風景へと切り替わっていく。LAから170kmほど離れたこの街に行く途中に「コーチェラ」と書かれた看板を目にする。パームスプリングスの入り口についた頃には周りは一面砂漠で、遠目に高い山並みが見える。空は青く、地面は砂色。そのコントラストが美しい。遮るものはなにもないので太陽は強く照りつけているのだけれど、風が涼しくて気持ちがいい。パームスプリングスの入り口にはガスステーションを改築したアルバート・フレイによるビジターセンターがある。庶民的、かつアメリカの代表的な構造を活かしたこのビジターセンターは外見だけでなく、置いてあるお土産物まで良くデザインされた素晴らしいスペースだった。その後、パームスプリングスの美術館と、建築デザイン専門の美術館を2軒はしごをする。特に印象深いのは後者で、アルバート・フレイの作った自邸(Frey House Ⅱ)の制作過程を記録に残した映像は興味深かった。彼の建築はこれまで見てきたライトの建築とは全くアプローチが違い、かなり簡素な仕組みで設計されているように思えた。柱、屋根、そして窓。基本的にはこの3つで空間を区切っている。開かれた窓からはパームスプリングスを一望できるロケーション、つまり山の上に建てられている。山を削って建てられたことを利用し、室内には岩肌が食い込むように設計され、それがそのままインテリアになっている。平屋であること、アルミを多く用いていることをだけを取り上げれば安っぽいコンテナハウスになってしまいそうとも思うが彼独特のユーモアが効いていて好感が持てる。彼自身のセンスとユーモアは美術館に飾られていた彼の肖像写真からもよく伺えるだろう。自身の建てたであろう最初の自邸の前にカッコいいオープンカーを停め、その車に軽く寄りかかるように涼しげに立ってポーズを決める彼の姿は、「粋」という言葉を体現したような佇まいだった。

パームスプリングスの夕焼けは最高に綺麗だった。街の全てが太陽の色に染められて色を変えていく。椰子の木が青とピンクが混じったような空に突き刺さるように伸びているのを見ると、なぜかわからないが頭のなかに「Ross From Frends」の曲が流れてくる。その瞬間はみんなでカメラを持ってモーテルの部屋を飛び出してふらふらと住宅街を歩いた。車も少なくて、道路の真ん中を歩いたりしていても平気だった。カメラを構えていると自転車に乗った青年がこちらに向かって思い切りピースをしながら画角に入ってくる。陽気な気候は陽気な人を生み出すのだろうか。老人のリゾート、ダサい街、散々な言われようだけれどパームスプリングスは少なくとも今のところ僕らにとっては最高の街でしかなかった。

この日の僕達の夜の楽しみはドジャースのワールドシリーズだった。外食をするのもよかったけれど、近くでビール、ケンタッキーのフライドチキンを大量に買い込んで試合観戦に備えて準備を整えた。ベッドに座ってみんなでドジャースの応援をし始める。前回の試合とは打って変わって、1点を争う投手戦になる。前田健太も登板し、一同で固唾を呑んで彼の応援をした。最終的には抑えのヤンセンが9回をしっかりと3人で抑えドジャースは勝利を迎えた。3勝3敗で迎えたワールドシリーズは明日の決勝戦に全てが委ねられていた。ノリで見始めたメジャーリーグもここまで来ると真剣に応援せざるを得ない。明日ダルビッシュが登板し、そこで勝利を納めれば間違いなく僕達は最高に誇らしくアメリカを、カリフォルニア州を歩けるだろうと思った。

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