ESSAYS IN IDLENESS

 

 

SEE EVERYTHING ONCE / TRIP TO SOUTHERN DAY4

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車窓からの景色にパームツリーが増えてくると、自分たちがカリフォリニアに来ているという気持ちがより強くなる。この日は目的地のロサンゼルスにできるだけ近づくために移動がメインになる。道中寄ってみたかったビッグサーは道路の崩れが原因で行けず、そのかわりにロスアラモスという街に立ち寄ってみることにした。ビッグサーを避けるように内陸に一度食い込み、そこからサンルイスオビスポ、サンタ・マリアを経由し、ロスアラモスを目指す。途中で一度休憩をとったグアダルーペという名前のスモールタウンは、街の持つ色相といい雰囲気といい、これまで見てきたThe America!という感じとは違って、ラテンアメリカそのもののように思えた。その街に少しの間とどまって通りを歩いて写真を撮ったりしてから、更に南下していく。

ロスアラモスという名前の街に言ってみようというのは、この旅が始まる前の企画の段階で決まっていた。その理由はもちろんエグルストンの写真集のタイトルに付けられた名前だからだ。しかし、結果から言うとそのロス・アラモスはエグルストンの撮ったロス・アラモスではなかった。エグルストンの撮ったロスアラモスはニューメキシコの北部、サンタフェから少し北側の山奥にある核/原子力研究施設のある街だ。カリフォルニアのロス・アラモスは小奇麗な観光地という佇まいだった。古い建物やサインが意図的に残してある、気持ちの良い綺麗なスモールタウンだった。道路脇に車を停めカメラを各々持って飛び出すと、とても暑い。昨日の夕方に感じた肌寒さはいったいなんだったのかというくらい暑い。少し住宅街のほうに入って写真を撮って戻ってきただけで汗だくになる。車のエアコンをガンガンに掛けて暑さのこもった車内を冷やしていく。車が冷えるまで日陰でタバコを吸いながらのんびり待っている時間も、僕達にとっては大切な旅の一部だったと思う。

日が沈むまでにロサンゼルスの近郊までに行かなくてはならないため、どんどんと南に進んでいく。途中サンタバーバラを通り過ぎる。この街は以前来たときには嫌な印象しかなかったのだけれど、『20th Century Woman』を見た今の自分にとっては改めて行ってみたい街になっていた。しかし残りの時間を考えると素通りせざるを得ず、泣く泣くこの街への来訪を見送った。改めて考えてみるとあのときは到着が遅かったし、海にも行っていない。車もなかったことを考えるとあの街の雰囲気の全てを知り得たとはいえない。あの映画に出てくる光景を考えると、この街はカリフォルニアの中でも群を抜いて素晴らしいに違いないという勝手な期待を寄せざるを得ない。あの映画に関してはエル・ファニングが出ているという時点で(しかもあの役どころだし)フェアに見れるわけがないのだけれど、それを抜きにしても2017年の最高の映画の一つだったと改めて思う。

カリフォルニアらしさを感じる瞬間として他に挙げられることがあるとしたら、それはタンクトップとホットパンツ(以下TTHP)を着用している人口の増加率なのかもしれない。街や都市部で車で信号待ちをしている瞬間、ふと脇を見るとタンクトップとホットパンツを着た若者がいるのに気づく。総じて彼らは上下別の色のカラフルな出で立ちで、大体がブロンドヘアだ。ファストフード大国アメリカにして、その衣服から伸びる健康的な四肢はまさに生ける奇跡とでも言えるだろう。僕たちは何もそういう人たちを性的な目線で見ているのではなく、アメリカのティーンエイジのアイコンとして見ている。映画や写真やドラマで見た光景がフラッシュバックしてしまうのだけれど、それで思い出されるのはそれこそThe Teenagersの1stアルバムの『Reality Check』の一曲目『Homecoming』のPVだった。もし僕が古代アテネの王だったとしたらトーガなんて身に纏わせず、タンクトップとホットパンツをアテネの正装にしただろう。そのときには走れメロスの登場人物はタンクトップとホットパンツを身にまとって走っているだろうから、あながち間違いでも無い気がする。このティーンネイジャーとホットパンツという永久循環、輪廻は天界へと誘う螺旋階段であり、それと同時に僕達にとっては叶わぬ夢だった。実物を見れないからこそ、その螺旋階段は高くどこまでも伸びていく。そしてこの日、僕たちはその夢に出会った。カラフルな色彩のTTHPを身にまとい信号待ちをしている彼らを、そしてそのまま横断歩道を渡っていく彼らを。アスファルトの灰色に彼らの身にまとう色彩はよく映える。それはすなわちスラム街の夜に輝く一等星の輝きに等しい。さらに言えば夕日を逆光に浴びる彼らの姿は天から降りる後光を纏う天使の如く美しいのだった。

この日起きたもう一つの出会い、それはIn-N-Out Burgerとの出会いだ。カリフォルニア出身の人達の間での論争として「No.1バーガーはどれだ」という話がある。ファイブガイズ、ハビット、様々あるが根強い人気なのがIn-N-Out Burgerであり、それはカリフォルニア州民の心とも言えるだろう。一度、カリフォルニアに行った友人と、カリフォルニア出身の先生との会話を聞いたことがある。

「In-N-Out Burgerは確かにうまいけど、俺はサンフランシスコのSuper Duperのほうがいいな」
「なんてこと!あなたとは金輪際話をするのはやめるわ。ハンバーガーの国に生まれていないあなたにハンバーガーの美味しさなんてわかるはずもないもの!」

これは実際の話で、その話が本当かどうかはIn-N-Out Burgerに行ってみればわかる。まず間違いなく週に何度もハンバーガーを食べているであろうこの国の人達が、店内にもドライブスルーにもあふれかえるほど並んでいて、皆一様にハンバーガーとシェイクとポテトを頼んでいるからだ。ちなみに、旅において僕はおそらく10回以上、様々な州の様々な都市でIn-N-Out Burgerに行ったけれど、並ばずに食べれたことなんて一度もなかった。そんな情報もあってか、この日泊まる予定だったサウザンドオークスという街のモーテル6の脇にIn-N-Out Burgerを見つけた時には本当に嬉しかった(郊外によくあるハンバーガーチェーンだから、普通に電車やバスを使う旅だと行きにくい)。店内に行くと赤と白を基調としたシンプルかつ馴染みやすい素敵なデザインが好印象。そしてメニューは極シンプルで、ポテト、シェイク、ハンバーガーとチーズバーガーしか無い。オーダーの際に肉とチーズの枚数を指定でき、裏メニューとして「アニマルスタイル」と呼ばれる特別なソースを追加でトッピングできる。ミルクシェイク、ツーバイツー(チーズとパテを二枚ずつ)のチーズバーガー、そしてポテトを頼み席に着く。ちょうどいい硬さの赤色のソファが心地良い。店は混んでいて、店内にはそれこそTTHPのティーンネイジャーが美味しそうにポテトをつまみながらおしゃべりをしている実にカリフォルニアらしい光景も見かける。自分の番号が呼ばれ、品物の乗ったトレーを受け取り、席に着く。まず最初に椰子の木のかわいいデザインのあしらわれたカップに入ったシェイクを一口。その瞬間、あまりの美味さに笑いが出る。ハンバーガーを一口、もはや爆笑である。シェイクは濃厚でくどくなりすぎない絶妙な甘さ、そしてバーガーは肉厚でジューシー、レタスやトマトはフレッシュ。玉ねぎの苦辛さがアクセントとなり清涼感がある。ポテトは素朴で素材の味が存分に生かされている。味が濃い目のハンバーガーとシェイクの間を絶妙なバランスで取り持つ役割をしているのがわかる。食べ終わったあとにはもう一度シェイクを頼みたくなってしまうほど、僕はこのシェイクの虜になってしまった。喉を潤すためにシェイクを飲むと、その絶妙な甘さが口に残る。そしてその甘さは乾きを生み出し更に飲みたくなる。気付いたときにはシェイクは空。この甘美な味の錬金術は麻薬的な危険すぎる卓上のマッチポンプなのだ。In-N-Out Burgerではオーダーを受けてから生の食材を調理することによりこの素晴らしいクオリティを出すことができるらしいのだけれど、このハンバーガーの美味しさはもうそんな健康志向だとかそんなことはどうでも良くなるくらいうまかった。もしフレッシュさに言及する瞬間があるとすれば、一日2回以上In-N-Out Burgerに行ったときに「新鮮な野菜を使ってるから食べれば食べるほど健康にいいんだよ!」というときくらいだと思う。そんな冗談を地で行く人間がこの旅の仲間にいる。シェイク/バーガー/ポテトを店内で食べたあとに持ち帰りでシェイク/バーガー/ポテトをもう一度頼んだのだけれど、名を浅倉という。彼はこのアメリカの旅で確実に太っていた。この店で提供される食べ物の美味しさは確かにハンバーガーショップの概念を変えた。しかし、この店の愛すべきところは味、価格、そして店の雰囲気において徹底的に日常に寄り添っている点にある。確かに、このハンバーガーより美味しいバーガーショップはあるかもしれない。※例えばポートランドで言えばキラーバーガーやヤード・ハウスのハンバーガーとか。ただしそれらチップも考慮すれば$15はくだらない価格がするもので、特別なものだ。言い換えれば「美味しくて当たり前」なぜならそれ相応のお金を払っているのだから。このハンバーガーに特別さはない、日常という範囲においての至高だからだ。最高のEveryday Thing。それがこの素晴らしいハンバーガーショップに毎日どんな時間帯でも人々が並んでいる理由だろうと思う。そして、今なら先生が「あなたとはもう口をきかない」と行った気持ちもよく分かる。これはカリフォルニアの人たちにとっての魂であり永遠のスタンダードだ。リーバイスのジーパン、ヘインズのTシャツ、そしてIn-N-Out Burgerのツーバイツーとシェイクとポテトなのである。それはもはや普遍的なもので、カリフォルニアのランドスケープの一つだと思う。もし将来カリフォルニアが独立国として成立した際には(実際にそういう話は昔からある)、In-N-Out Burgerのロゴを国旗とすることを今のうちからオススメしたい。In-N-Out Burger、そのサインは希望の光。In-N-Out Burger、僕達の心のバーガーショップ。

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