ESSAYS IN IDLENESS

 

 

BROKEN SOCIAL SCENE@CHIRISTAL BALLROOM

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閑話休題
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ポートランドを出る前の晩、日本から来た武知、浅倉と一緒にBroken Social Sceneのライブを見に行った。彼らが活動を再開してくれたこと、僕がアメリカにいたこと、そして僕が旅立つ前にこの最高の街でライブをしてくれたことに運命めいたものを感じた。

僕がこのバンドのことを知ったときのことは明確に覚えている。大学1年、当時18歳のころ、大学の音楽サークルに入りたてだった僕は音楽について全くと言っていいほど何も知らなかった。ベースギターも始めたばかりで、インディー音楽というものの存在を知らなかったし、むしろその当時まではイギリスの音楽ばかり聞いていたくらいだ。アメリカの音楽といえばレッドホットチリペッパーズとウィーザー、ニルバーナくらいしか知らなくて、よく聞いていたのはスミスやビートルズのようなブリティッシュ・ロックだった。先輩たちのオススメしてくる音楽や、聞いている音楽について話を聞いても全然わからなかったのでどうにかして色々な音楽の音源を手に入れなくてはならないと苦心していた。部で持っていた学生会館の地下にある、畳4枚分くらいの広さの、タバコの匂いが壁中に染み付いた焼け跡だらけの部室には、昔のブラウン管テレビのように大きく、ヤニのベッタリと着いた汚いパソコンがあった。そこにはハードディスクが繋がれていて、僕の知らない音楽が沢山入っていた。部に入りたてのころ、タバコを吸いながら屯する先輩たちに混じって僕はよくこの部室を訪れては、イヤホンを繋いでその音楽をひたすらに聞いていた。その中でも特に印象に残っているバンド、というかアルバムが2枚あった。どちらもバンド名がかっこよさげということでなんとなく再生したのだけれど、そのうちの一枚はSonic Youthの『Daydream Nation』。アルバムを再生して5秒、その圧倒的な格好良さに虜になった。不思議な不協和音やキム・ゴードンの語りといった不気味なイントロから一気に疾走感のあるギターリフが始まり、荒れ狂うようにかき鳴らされるギターやベース、そしてそこから延々と5分以上も続く似たような展開は僕の知らない価値観が全て詰まっていて、それが「格好良い」ことだと直感的に認識できたのは今思えばおかしなことだと思う。そしてもう一枚がBroken Social Sceneの『You Forgot It In People』だった。1曲目のCapture The Flagを聴き、まるでロックとは違った世界観の曲が展開されていると思っていると、KC Accidentalが始まる。両耳からキラキラした音が光の洪水のように流れ込んできて、その瞬間の感動はなんの誇張もなく天にも昇る心地だったと思う。そもそもギターであんな音が出せることも、やたらとうるさいクラッシュシンバルの音も、ストリングスが入るロックも知らなかったから全てが新しく聞こえた。彼らの崇高さすら漂う音楽は僕の価値観を根底から覆していった。それが僕にとっての本当の意味での「オルタナティブ・ロック」と「ポストロック」への入り口だった。その翌年の恵比寿リキッドルームの来日には行けたのだけれど、彼らはその後長らく活動を休止してしまい、メンバー各々のプロジェクトに進んでいったのは悲しかった。そんな彼らが活動を再開し、この街でライブをしてくれることを知れた日は本当に嬉しかったし、そのバンドを友達と一緒にアメリカで見れることはおそらく今後の人生でも起きないだろうと思う。チケットは完売していない様子だったので、もしかしたらスカスカなんじゃないかと心配していたが、当日ライブ会場の前まで行くと当日券を求める人達が長蛇の列を作っていた。クリスタルボールルームは僕がこの街に来てから最初に行ったライブハウスで、そして最後に訪れたライブハウスにもなった。美しいアールデコスタイルの内装や意匠が凝らされたシャンデリアは相変わらず綺麗だった。会場真ん中辺りにするすると入り込んで演奏を待った。

わざわざ日本からきた武知と浅倉

わざわざ日本からきた武知と浅倉

会場から歓声が沸き、メンバーが入場してくる。そのうちの何人かは見たことがないツアーメンバーだった。歓声に飲まれながら、KCのイントロが始まるとテンションがぶち上がる、しかし、、、「演奏めっちゃずれてる、、、!」と乗っけからこの日の演奏が不安になる。あの時あのヤニ臭い部屋で聞いた時のような音圧はなく、音は小さ目だし、無駄に入れようとしたアドリブで普通にミスってるし、期待していただけその落胆は大きかった。ライブではまず間違いなく演奏される7/4 (Shoreline)、新作の『Hug Of Thunder』からHalfway Home、Protest Songと続いていく。徐々に乗ってくるメンバーのグルーブと、厚みを増していく音圧、そしてケヴィン・ドリューのスピった若干気持ち悪いMC。間違いなくこのライブは後半に行くについれて良くなっていくだろうと予感した。Fire Eye'd BoyやTexico Bitchesといった踊れる曲では周りの人達もノリノリで身体を揺らしているのは見ていて楽しい。アンコール含む最後の6曲は圧巻でAlmost Crimes、Major Label Debut (Fast)、It's All Gonna Break、ちなみにIt's All Gonna Breakのとき隣を見たら「フェアに聞こうと思っています」と開演前に語っていた浅倉は静かに涙を流していた。そして Anthems for a Seventeen Year-Old Girl、Ibi Dreams of Pavement (A Better Day)、Meet Me in the Basementと続いていきライブは終わった。Broken Social Sceneの曲は自分で演奏をしてみたこともあるだけに、彼らの実際の演奏を聴くととても幸福感がある。Ibi Dreams of Pavement (A Better Day)に関しては生涯で何百回聞いているのだろうというくらい聞いているのに、実際に目の前であの神がかった高揚感のある展開を繰り広げられると実際のところ涙がでるくらい感動的だった。もちろん、オリジナルメンバーじゃないことだったり、ミスが多かったり、至らないところはどうしたってあるライブだったことは否めない。でもこのライブは自分にとってかけがえのないものだったし最高だったと思う。自分の思い入れや愛着で正当な評価ができないことは非難されるべきなのだろうか?こうしてこのライブを思い出しながら彼らの音楽を通して聞いていると、10年も前のことを思い出すし、そして彼らの新譜の音楽はとても素晴らしいものだと素直に思える。僕らが彼らを好きになった頃の音からいい意味で変わっていない。僕が大人になってしまってからは、かつて自分が好きだったアーティストが新譜を出す度に落胆してしまうことも少なくない。そんな中で昔と変わらず素晴らしい音楽を作り続け、そして演奏をしてくれる存在があるというだけでどれだけ救われることか。そうして過去を美化し思い返すことは彼らの歌そのものではないだろうか。

hiroshi ujiiemusic