SEE EVERYTHING ONCE -DAY26-
この日はイリノイ州からアイオワ州のデ・モインまでのドライブ。何もない道をまたひたすらに進んでいく。この長かった旅も残すところ今日を含めてあと5日、僕はまだアメリカの東側にいることになる。残り時間の少なさとポートランドまでの距離を考えながら、道を選び、見るべき場所も選んでいく。イリノイ州からアイオワ州に行くまでにはいくつかの川を渡らなければいけない。一つ目はイリノイ川、そして二つ目はミシシッピ川だ。イリノイ州とアイオワ州はミシシッピ川に沿って州が隔てられている。ミシシッピ川にかかる橋にはビジターセンターがあったり、グレートリバーロードという川沿いの気持ちの良いハイウェイが整備されている。時間がないのに寄り道ばかりしてしまったから、いつの間にかあたりは夕暮れになっていた。地図で偶然見つけたある町が、ミシシッピ川の中洲にあるのだけれど、そこから夕暮れを見たら眺めが良さそうだと思いまた敢えて遠回りをしてしまう。古びた細い鉄橋の上を進んでいくと小さな島がある。島の中には家が100軒くらいしかなくて、島の真ん中にはギルバート・グレイブでディカプリオが登るような給水塔が建っていて、周りは美しいミシシッピ川に囲まれてる、映画の舞台のような小さな街だった。道路脇に車を停め、キラキラと輝く水面を眺めたり、風に揺れる木々の音を聞いていると心が安らいでこれまでの旅の疲れも癒えてくるような気がする。毎日10時間以上、平均して600kmくらいはドライブをし続けているのだけれど、思ったほど辛くないのはこうした素晴らしい景色をいつでも見られるからだと思う。その街で暫くくつろいだあと、そのままアイオワ州の田舎道へと進んでいく。夕暮時のハイウェイは本当にいつ見ても綺麗で、オレンジ色に染まる農村やトウモロコシ畑を通り過ぎる旅自分が写真や映画の世界の中にいるような気さえしてくる。これがまさに僕が夢見ていたアメリカの色彩なんだと心から思えた。
デ・モイン空港近くのモーテルへ着く。この旅でだいぶ慣れ親しんだモーテル6だったのだが、受付に入ると予約がめちゃくちゃになってしまったから、外で少し待てと言われる。この時点で夜中の11時を過ぎたあたりで、こちらとしては一刻も早く部屋に戻って一休みしたい気持ちだった。ドレッドヘアの黒人のお兄さんは明らかに受付でテンパっていた。それもそのはず、周りには屈強な筋肉を誇示するかのごとく白のタンクトップと金のネックレスをした黒人のお兄さんや、荒くれのトラックドライバーがわんさかと受付にいたからだ。結果的に言えば僕の予約は無事受け付けられたのだけれど、この瞬間は少しだけ恐怖を感じた。そもそも、このモーテルの客層は僕がこれまで泊まったモーテルの中でもかなり悪い。駐車場に停めてある車はボロボロだったり、ガラスがぶち破られていたりする。白人の宿泊客も見なかったし、フロア全体にマリファナの匂いが漂っているような気もした。翌朝早朝にこのモーテルを出るときに陽気なお兄さんから話しかけられたけれど、おそらく彼はディーラーかなにかで、カタギの人間ではなかった。空港近くのモーテルは今後選ぶまいと心に決めて、この日は部屋で一服して、一杯ビールを飲んでから、シャワーを浴びて眠りについた。