SEE EVERYTHING ONCE -DAY24-
モーテルを出て西へと進む。もう旅も最後の一週間を迎え、あと6日以内にはポートランドまで戻らなければならない。直線距離で言うと残り3000km弱なのだけれど、僕のことだからその二倍くらいの距離を想定しなければ行けないのかもしれない。途中にクールヴィルという名前の街を見つけて立ち寄ると風情のあるスモールタウンだった。もちろん立ち寄った理由はその村の名前だ。日本語に直すとしたら「かっこいい村」もしくは「涼しい村」なのだろうけれど(まあ後者だろう)、僕からしてみれば「クール村」でしかなく、それはそのままこの村に立ち寄らなければならない理由になる。クール村は閑静な田舎臭さを残す村だった。人はいなくて、廃れたレンガ造りの建物に何十年も前にペイントされたであろうローカルな壁画が掠れてかろうじてのこっているのが印象的だった。近くの川沿いに車を停めて、バナナとリンゴを食べる。陽の光がキラキラと水面に反射したり、木々の間を縫って地面に差し込むのが幻想的だった。更に西に進むとマッカーサーというスモールタウンにたどり着く。廃れた雰囲気、つまるところ古さをいい意味で残した風情ある素敵な街だった。今はもうオハイオ州に到達しているのだけれど、この南部はいい感じの街がかなり残っている気がする。そこから更に西へ車を走らせる。今日のノルマを達成するためにはどんどんと西へと進まなければならない。西に向かっているものだから、夕暮れ時の田舎の道路が死ぬほど綺麗に見える。フロントガラスから夕日がこれでもかというくらい目に飛び込んでくる。オレンジ色に染まるトウモロコシ畑とじゃがいも畑の美しさ。光の反射する道路や窓ガラス。燃えるほど赤い夕日と雲。たとえ有名な場所にいけなかったとしても、心に残る光景が見れることは本当に幸せだった。こういう日はいい音楽を聴きながら車を走らせて、いい場所を見つけたら写真を撮って、それを繰り返しているだけで最高の気分になってくる。一日に何度も車を停めてガスを入れる。ガススタンド脇のコンビニでコーラやレッドブルを買って、ドーナツをほうばりながらタバコを吸う。この辺のガソリンは安いだとか、このコンビニでは何が売ってるだとか、この辺の人口比率はどうなのかだとか、そんなことをいちいち考えながら、誰もしらないような小さな街や、街でもない場所に思いを馳せるのが好きだった。
オハイオ南部には、以前行けなかったジーニャという街があるのを知っていたので、この帰りのルートで立ち寄ることにしていた。ジーニャは映画『ガンモ』の舞台になった(脚本上で)場所だ。この街は廃れて若干陰鬱とした街だった。車から降りてあたりをブラブラとしていると、暇そうな黒人の太ったおじさんが「へ~~イ!」と声をかけてくる。何をしてるの?と聞かれても、ただ立ち寄っただけなんですが、としか言えないのだけれど、人々は割りとフレンドリーな様子だった。黒人のティーン達が道路で遊んだり屯している場面に出くわした。彼らが陽光に照らされて光りに包まれていて、神々しさすら感じる瞬間だった。こんなに素敵な若者たちが、都会と何百マイルと離れたこの小さな陰鬱とした街でその青春を過ごさなければいけないとしたならば。そうして街をぐるぐると回るうちに、この街が映画の舞台として選ばれた理由がなんとなくわかった気がした。