ESSAYS IN IDLENESS

 

 

TRIP TO TAIWAN -TAINAN~KAOSHIUNG / DAY9~10-

高雄のある一コマ

高雄のある一コマ

DAY9

台南のすこし外れたところにあるホステルからバスに乗って中心街へ。台南の入り乱れた雑多さは昼に見てもあまり変わらない。他の街ではあまり見かけなかった浮浪者もこの街には多かった。商店街の一角にあったお洒落な珈琲屋さんで頼んだテイクアウトのコーヒーを片手に、中心から近いところにある市場をいくつか巡る。半袖で余裕で過ごせるし、むしろ暑いくらいなのだけれども、たまには朝にコーヒーが飲みたくなる。昼過ぎに少し人で賑わっていた食堂に入り、牛すじ肉のスープを食べる。パワフルなおばちゃんが取り仕切るその食堂のスープはとてもおいしくて、優しい味がした。茹で上がった牛すじにあっさりとしたスープをかけるだけなのだけれど、スパイスが聞いていてやみつきになる味がする。少し歩くと手書き看板で有名な映画館があり、そこまで歩いていった。映画館の前の駐車場ではまさに次の看板の制作に取り掛かっているところで、静かに看板に向き合い、一心不乱に絵筆というか刷毛を動かしているところだった。映画館の壁にかけられている看板ももちろん手書きで、この看板を見ていると別に興味の無い映画でさえ見たくなってしまう不思議な力がある。もし時間があれば中に入ってみて映画を見てみたかったのだけれど、また次にこの街に来た時の宿題にしようと思う。

そのあと、川沿いまで歩いて行って何をするでもなくただ、暑いコンクリートの土手を歩いていった。ホステルのおばちゃんが懇切丁寧に教えてくれた(マップを事細かに解説してくれて乗るバスのメモまでくれた)道順や、見るべき廟もすべてスルーし、ただだらっと歩いていた。疲れたので川沿いに腰をおろして水を飲んでいると、目の前で二羽のツバメがくるくると旋回飛行を繰り返しながら同じ場所を何度も何度も追いかけ合っていた。水面に向かってすごい速度で向かっていくのだけれど、ぎりぎりのところで身を翻して上空へと上がっていく。川にはたまに観光用の船がゆっくりと通り過ぎていくのだけれど、それがなんとも慎ましかった。

台南は暑くて、気がつくとかなり日焼けしている。そして日に当たっているといつもよりも疲れる。所々で冷たいデザートを食べたり、お茶を買ったりしながら歩いていたけれど足の裏の痛さが限界を迎えつつあった。そんな時見つけたのが、健康器具の置いてある団地の中の公園で、その公園に置いてあった器具を使って背筋を伸ばしてみたり肩関節を伸ばしたりしているうちにいつの間にか日が暮れていた。たまに家族連れの人たちが通り過ぎていくのだけれどさぞかし不審だったと思う。それだけでは疲れが癒えないと思ったので、高雄に向かうまでの空き時間でマッサージ屋に行ってしまったのだけれど。そういえばゲットーのような佇まいの食堂でこの日の夜に食べたヤギ肉の鍋とヤギ肉のチャーハンは本当に美味しかった。


DAY10

朝起きて、その日に泊まる高雄のホステルへとチェックインをする。美麗駅というすこし仰々しい駅の近くにある立派なロータリーがあるのだけれど、そのすぐそばのホステルだった。荷物を置いて朝ごはんを食べに行ったのは駅の周りにできている立派なロータリーの中にある小さな食堂だ。堂々と店の前の道路に机と椅子を出して商売をしていて、そこに座っているとなんだか不思議な気分になる。アサリのスープと魯肉飯はとても美味しくて毎日でもこの店に通いたいと思うほどだった。

この街を少し歩いていて感じた違和感の正体が少しずつ掴めてくる。まず、人が少ない。発展した街なのに人があまりいない。朝ごはんを食べているときも、これまでだったら目に見える通りにはワイワイと人が賑わっているのが常だったけれど、通りを歩いている人はまばらだった。ひとまず高雄の中心に位置している中央公園まで歩いてみたものの、横断歩道や商店街にも人はあまりいなかったように感じた。公園の中ではおじいさんたちが木陰にある将棋や麻雀を打っていて、涼しい風が吹いていて、園内に無造作に生える大きなガジュマルのつくる陽だまりが気持ちよかった。そしてそれが非常に居心地がいい。おそらくこの街の居心地の良さは人の密度と大きく関係がある。中央公園脇の寂れたビルは昔のままの雰囲気を残しているし、小さな通りにあるお店の佇まいも素敵だった。そこかしこにある廃屋に描かれたグラフィティーが現代っぽさを醸し出すが、それが妙に街の雰囲気と合っているのが不思議だった。この街の若者はいったいどこにいるのだろうか。ただひとつ言えるのはこの街の印象はすごく好きで、平凡な風景の中に流れる独特の空気感はこの街以外では味わったことがないということだった。

海沿いの方に歩いていき、いくつかの店に入った。海沿いの広場ではみんなが強い風に向かって凧をあげていた。その数は100を超えるだろう。この強い風は明日行く澎湖島にも吹いているに違いない。風櫃の少年に出てきた港は実は高雄にあり、そこは観光地になっている。高雄の本島から摂津という離島へ行くのにフェリーを使うのだけれど、そこには300人くらいの行列ができていて、みんな摂津港の近くの浜辺にこれから夕焼けを見に行くのだろうと思った。もちろん僕もその予定だった。港のあたりの雰囲気はなんだか浮き足立っていて、フリーマーケット的な催し物や、地元レベルの出し物(おばちゃんのカラオケとか、小さな女の子のドラム当て振りとか)をやっていて、この町で初めて人で賑わっている瞬間を見た。フェリーに乗り、海の見えるデッキに座り、高雄の綺麗な海を眺める。台湾の海は何度見たって飽きのくるものではない。だんだんと高雄の街が遠くなっていく、、、と思ったらすぐに摂津の港についた。おそらく5分くらいだろう。船から降りて来た方を振り返ると高雄の港が見える。

 

摂津のオールドタウンは観光客で賑わっていて、よくわからない物を売っている露店もちょくちょくと見かける。一旦食べ物は全てスルーし、日が沈む前に砂浜へと急ぎ足で向かう。摂津の砂浜はこれまで見てきたどの砂浜よりも広く綺麗だった。空が少し曇っていたから、海の水も砂浜も灰色というより銀色に近いような色をしていた。波打ち際では散歩をしている人や、静かに海を見ている人がいて、今年最後の色あせたピンク色の太陽がその人たちの後ろに沈んでいくところだった。この季節になると太陽が沈むのが早い。まだあと1時間くらいは見れるんじゃないかと思っていた夕焼けが、あっという間に沈んであたりが暗くなる。今年最後の太陽は意外とせっかちであっけなかった。もう、10月の末からフラフラとし始めて3ヶ月も経つものだから、クリスマスも年末も全然感じる余裕がない。あまつさえ台湾にはクリスマスも年末も盛大に祝う風習がないようだ。だから、なんだか2018年は2017年がいつまでも続いていくような気がしていて、感傷に浸るでも、前向きに切り替えて何かを頑張ろうという気持ちになることもなく、ただいつものように過ぎていった。辺りが暗くなると海岸沿いでやっているパフォーマンスや露店がやけに明るく感じて気になってくる。棒やヨーヨーについた火球を音楽に合わせて振り回すパフォーマーを見ていると、なんだかここがベニスビーチのように思えなくもない。そういえば去年の年末はサンフランシスコの港でドラムのストリートパフォーマンスを見たり、みんなでGet Lucky聞いて踊ったりしていたっけ、なんてことを思い出した。この台湾の年末の特別感の無さもある意味特別な気がしていて、それは何かと比べるということではなくて、こういう年末も自分には大切だったのかもしれないとその時考えていた。せっかくなのでこの日は少しだけ良いものを食べようと思い、摂津のメインストリートにある海鮮料理屋にいくことにした。食堂に入る度にいつも思うことだけれど、台湾では美味しくないものを探すほうが難しい。お腹一杯に海鮮料理を食べて満足してホステルへと戻った。

ホステルへ戻り受付を済ませようとしたところ、予約ミスで一月先の部屋を抑えていたことが発覚する。しかたないのでその場でホテルを探して、そのホステルからあるいて10秒くらいのところにある別のホテルへと移った。チェックインを済ませてから近くの夜市へ行って軽く一杯引っ掛けるともう深夜近い。ホテルの部屋は12階にあり、部屋で荷物の整理をしていると外からバンバン!と何かが鳴っている音がする。窓を除くと高雄の街のあちらこちらで花火が上がっているのが見えた。近いところでは何本か先の通りだったり、遠くにはいくつかまた別な花火が見える。そういえば去年サンフランシスコで見ようとした花火は、結局見る方向を間違えてて全然見えなかった(わざわざクソ寒い中2時間くらい待った)のに、今年は意図せずして素晴らしい花火が最高の環境と最高のタイミングで見れてしまうという幸運。自分が今年最後に犯したミスは最高の形に変わり、2017年が終わり、2018年が始まった。

hiroshi ujiietravel