ESSAYS IN IDLENESS

 

 

MOULTON FALLS -KINGS OF SUMMER-

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8/21にオレゴンの南の方にかけて金環日食が見れるらしい。そのせいでアメリカ、ないしは世界中からオレゴンの南部に向けて旅行者が車で押し寄せるらしく、オレゴン中のガススタンドからガソリンが消え、週末や日蝕当日に関しては5マイル進むのに10時間かかるというニュースもそこかしこから聞こえてくる。「それマジで言ってる?」という気持ちでそのニュースをきいていたのは、まさにその週末にオレゴンコーストの砂丘へ行く予定だったからだ。もはやこのアメリカ人の浮ついたお祭り騒ぎ為す術もなく、泣く泣く湖沿いの素敵なAirbnbをキャンセルした。

仕方ないので、土曜は暇な友達と一緒にワシントンのモールトンフォールズという川沿いへ肉を焼きに行くことにした。オレゴンから北へ1時間ほどドライブするといけるのだけれど、その道中一度も渋滞には悩まされなかった。まさか、と思い交通状況を調べてみると渋滞する気配も微塵もなく、僕達が通っていたであろう道も一切渋滞していなかった。まったく、アメリカという国はどうしてこうも予想が付かないのだろうか。道中のスーパーで食料を買い込んでから川沿いへとたどり着く。駐車場は半ば一杯で、どうにか見つけた駐車スペースに車をねじ込み早速バーベキューを始める。駐車場には次々とジープやらランドクルーザーやら、古いセダンにキャリーを付けて無理くりアウトドア仕様にした車やらが入れ替わり立ち替わりでどんどん入ってくる。その車を見る度にアウトドアへの憧憬と、車というものへのロマンが沸々と湧き上がるのを感じる。僕らがバーベキューをしていると、いろいろな人達が話しかけてきてくれて、中にはかつて東京に住んでいたというバレエ団専属のピアニスト(彼は熊川哲也の劇団に所属していたこともあったらしい)もいて、片言の日本語で会話をした。ウィードでハイになったタイラーという青年に肉を食わせ、3時間前に買ったというハマーで乗り込んできた元米軍のおじさんたちとも友達になった。

なぜこの場所を選んだかというと、例によってクリフジャンプができるというただそれだけの理由なのだけれど、前回ハイロックスパークで飛んだ時よりもいささかというか、かなり恐怖心があった。まず、僕ら以外に川へ飛び込もうとしている人がいなかったこと。川の中にところどころ岩が見えること。そして少しジャンプが足りないと崖のへりの部分に身体を打ち付けるのが目に見えていたからだ。崖の上で着替えて、ジャンプ地点から下を除くとまったく安全な気がしない。高さも前回のハイロックスパークの崖よりも高く、正直なところ足がすくんでしまって20分くらいはヒヨッていたように思う。そんな時、「Jump!!」と後ろから声がした、振り向くとハマーのおじさんたちが身構えていた。「手本を見せてやる!」と言い残して、何の逡巡もなく勢い良くその崖から飛び込んでいくと、大きな水しぶきを盛大に上げて川へと落下していった。それに続かなければと思い、おじさんたちが落下していったところめがけて勢い良く飛び込む。踏ん切り、という言葉まさにその通り、心に踏ん切りを付け、崖のふちに足の指をかけて踏み切る。下半身や腰の辺りがふわっとした感覚に包まれてながら、メガネを外してぼやけた視界にもわかるくらい水面が勢い良く近づいてくる。すると数秒後に身体に強いという衝撃と、キンと冷たい水の感覚が伝わってくる。どうやらなんとか生還したらしい。冷たい水の中を浮上するその間に、安堵感と達成感、そして恐怖に打ち勝った自分が少しだけ誇らしく感じられた。「お前もう少し遠くに飛ばなきゃ危ないぞ、あと50センチくらい足りなかったら多分死んでたぞ」と、おじさんたちに言われる。確かに思ったところには着水できなかったのだけれど、傍から見てたら相当ギリギリだったらしく、崖の側面すれすれを滑るように落下していたらしい。たぶんすくんだ足では自分の思った通りのジャンプはできないのだろうとその時に思った。川から上がると、思ったより寒くなくて、たぶん脳内のアドレナリンが身体の感覚を鈍らせているのだろうとわかる。それくらいこのジャンプで感じられる興奮というのは大きい。「あっちにやばいロープがあるの知ってるか?連れてってやるからいくぞ!」とおじさんたちにいわれ、5分ほど一緒に歩くと秘境感の強い美しい穏やかなエリアへとたどり着いた。その川の40-50メートルくらい上には美しいアーチ状の古い橋がかかっている。そしてその橋からぶら下がる一本のロープがあった。「あの橋のたもとまで行くぞ」ということで、川を泳いだり、崖を登ったりしながらその馬鹿げたロープのぶら下がる場所までたどり着いた。その辺にぶら下がっている長い木の棒を使って、空中に垂れ下がるロープを手繰り寄せる。「ここからこのロープを使って飛ぶんだ。危ないから絶対にロープを掴んだままこっちに戻ってくるなよ!」と言い放ち、がちっとロープを掴むと、そのままターザンのように飛んでいってしまった。内心「そのオーダーは無茶だろ、、」と思う。おじさんは長い長い滞空時間のあと、前よりも更に大きい着水音と水しぶきを上げながらおじさんは落下していった。ひとまず崖の上から落下地点をみると、さきほどとは比べ物にならないくらい高い。ド近眼で距離感はうまくつかめないのだけれど、完全に脳が赤信号を出しているのがわかる。おしっこが漏れそうになる。しかし、この勇敢でクレイジーなおじさんたちに続かなければ自分の中に微かに残る男としてのプライドが砕け散りそうな気がするので後には引けない。きっと昔テレビでみたどこかの部族の成人の儀式(伸びない木のつるでバンジージャンプをして地面に叩きつけられるやつ)に向かう少年たちもきっとこんな気持なんだろうと思う。もう行くしかないということで、木の棒を使ってロープを手繰り寄せ、ロープにある結び目の部分をギュッと握り込む。この瞬間、本当にやるしかないんだろうなという気持ちになった。きっとこの瞬間の僕の顔は興奮と不安が1:9くらいでブレンドされた珍妙で神妙で奇妙な面構えだったに違いない。足を地面から話すと自然と不気味な笑みがこぼれてきた。足の下には青緑色の川が静かに流れていて、向こう岸からおじさんたちがこちらを見ているのが見えた。人間は地面を感じていないと本当にこんなに不安になるんだな思いながら、ちょうどスピードが一番乗ったところでロープを手放す。もっと遠くの方まで飛んでいけるかと思ったけれど、意外とそんなことはなく(漫画やアニメのあの忍者の動きは絶対ウソ)、手を離したところから少し先の方に長い時間をかけて着水していった。スパッと水の中に深く突き刺さるように着水すると、おじさんたちが「YEAHHH!!!!」と喝采を浴びせてくる声が聞こえた。興奮で火照った身体と頭が水で冷やされるのが気持ちよくて、暫く水の中でプカプカと身体を浮かせていた。せっかくなのでもう一度やってみようと思いたち、今度は円を描くように走って思い切り助走を付けて崖から踏み込んでみたのだけれど、調子に乗ってしまったせいか胸から着水してしまい胸部と喉のあたりを打ち付けて真っ赤になってしまった。そのあと、別のスポットに移動し、少し低いところから(といっても15mくらいはたぶんある)普通にジャンプをして飛び込み、そのまま泳いで岸にたどり着いた。「最後にあの橋の上から飛び込むってのはどう?」とおじさんたちに言われたけれど、流石にそこは丁重に断っておいた。このおじさんたちは朝イチで40m以上はあるであろうあの橋から飛び込んでいたらしい。クレイジー過ぎるしタフ過ぎる。何よりも元気過ぎる。本当に。

帰りの車の中で夕日を見ながらポートランドに戻る。少し気分が落ち着いてくると身体の至るところが痛い。たぶん興奮から覚めてしまったために痛覚が元に戻ったのだと思う。頭もなんだかぼんやりしてきて少し痛いのが徹夜明けの異様な高揚から徐々に戻ってくる時の感覚に似ていた。翌日、昼の12時頃に目を覚ますと頭や肩、首、腰などに鈍い痛みが出ている。その痛みが昨日のワイルドな一日を少し思い出させて、夢に出てきそうな気がしたからもう一度眠りについた。

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