ESSAYS IN IDLENESS

 

 

WAHKEENA FALLS

アメリカの世界恐慌時代にルーズベルト大統領が指揮したニューディール政策。第二次世界大戦の引き金にもなったと言われている未曾有の危機に際して、彼がとった公共施策がニューディール政策と呼ばれている。大恐慌によってどん底まで落ちた経済状況を、ダムやハイウェイの建設など、公共事業によって雇用を増やすことで立て直すという施策なのだけれど、その名残がこのオレゴンにもたくさんある。例えば、僕が前の旅で通ったI-84という道路の脇を通るヒストリックハイウェイというマルトノマ滝に通じる美しい道路がそうだ。その他にもI-84をもう少しいったところにあるフッドリバーブリッジやボンネヴィルダムなどもそうらしい。人の手によって作り出されたこうした景観と広大な自然の融合がアメリカのランドスケープなのだろう。ニューディール政策によって作り出されたアーティファクト、そしてその経済効果を対外的に訴求するために写真を撮っていたのがウォーカー・エバンスである。

ヒストリックハイウェイを通りながらガタガタ揺れる車の中でそんなことを考えながら、ワッキーナ滝へ向かった。カナダの森林火災や、オレゴン南部の森林火災の影響で、車窓左手側に見えるコロンビア川は白みがかった景色になっていたけれど、それはそれでとても美しかった。滝の麓に付き、靴紐を締め直し登山を開始する。緩やかな上り坂を3マイルほど登りながら、改めてこのオレゴンの自然の雄大さを感じる。足元に流れる清流や、苔むした木の幹や枝、そしてその枝を後ろから金色の陽光が照らし出す。空気は澄んで冷たく、頭の中がすっと晴れるような感覚が心地よかった。1時間半ほど登ると川の上流と、その川の元になっている滝が見える。登山道から少し奥まったところにあるその一帯の雰囲気はまさに秘境そのもので、どうしてこんなところに人が大勢いないのかというのが不思議に感じられるほどだった。滝壺の水はガラスのように透き通っていて冷たい。深いところに行くほど暗い青色に変わっていき、滝の勢いで波の立つ水面は宝石のように静かに輝いていた。それは自然の偉大さというか、畏怖を覚えるくらい綺麗だった。足を水にひたすとむしろ痛いくらいで、とてもじゃないけど飛び込める温度ではない。と思っているや否や50歳を超えているであろうおばちゃんがその水にどっぷりと浸かって泳ぎ始めた。それに続くようにそのおばちゃんの娘と思われる女の子も飛び込んで気持ちよさそうに泳ぎ始めてしまった。そんな光景を、滝壺の脇にある直径1mはあろうかという枯れた倒木の幹に腰掛けながら暫く眺めていた。この滝が作り出す川の流れに沿って歩いていくと、マルトノマ滝の裏手にたどり着く。その滝の頂上からまたコロンビア川を眺めたけれど、相変わらず綺麗だった。

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