ESSAYS IN IDLENESS

 

 

ON THE STREET

おそらくこの街を語る上で避けては通れないのがホームレスの問題だと思う。この街に来た人間が一様に語るのがこの問題であり、それはこの街の特徴と切っても切り離せない関係にある。去年の冬には路上で凍った赤ちゃんが発見されて大きなニュースになった。悲劇だ。僕が毎日暮らす中でも、ホームレスを見ない日はない。毎日使う駅へ向かう途中の道に必ずいる。いつも同じ場所に。しかも一人や2人という話ではない。雨だろうが、雪だろうが、氷点下だろうが、真夏日だろうが、いつも同じ場所にいるのだ。驚くべきことに、まだ働けそうな若い人も多く見かける。黒い大きなゴミ袋をもってゴミ箱をあさっているイケメンや、スーパーマーケットの手押し車に生活の全てに必要な物資を載せたおじさんやおばさん。電車の中で一人ひとりにたいして小銭をせがむ人。気が狂ってしまっていて全裸でゴミを路上にぶちまけたり、橋の上から電車に向かって投げ続ける人。奇声を上げながら街をうろつく人。電灯から電力を盗んでスマホの充電をする人。高速道路や電車の高架下は無料のキャンプサイトになり、廃屋と化したグラフィティだらけのビルや家屋はスクワッターがひしめいている。僕がフードカートで物を買えば、まずその辺にいるホームレスからジュースを買ってくれよとせがまれるし、そのへんで煙草を吸っていれば煙草をせがまれる。公園のベンチには楽しそうにくつろぐ家族連れがいる一方で、その隣のベンチにはもう何日も風呂に入っていないであろう汚い身なりをしたひとが苦しそうに横たわっていたりする。チャイナタウンに行けばいつだってこの手の人達が本当にたくさんたむろしているのを見ることができるし、その数は気温の上昇に合わせて増えてきている気さえする。毎日乗る電車の窓からこの人達のシェルターが通り過ぎるのが見える。そしてたくさんの人がそれに気づいて入るがどうするこもできない。この街の人柄の良さについてはこれまでたくさん感じてきたけれど、そういった人たちが助けきれないほどにこの街にはホームレスが多い。それくらい自分の生活とホームレスの問題は隣り合わせだ。

 

ホームレスの多さにはいくつか理由がある。まずひとつはこの街では路上や店の前で寝ていても法律違反にならないということだ。他の州では路上で暮らすことが違法のため、店の前や路上のちょっとしたひさしの下で寝ることができない。だから、そういった住環境を求めて他の州からこの街に流入してくるホームレスも多い。その次に家賃の問題だ。ポートランドはその知名度の上昇に合わせて家賃の高騰が異常なほど取り沙汰される。5年ほど前から比べると2倍、場所によっては3倍にも上がった家賃によって家に住めなくなってしまう人たちが後を絶たない。ポートランドで若いホームレスを見かけるのはそのせいであるという意見もある。また、これはアメリカ全土において言えることだが、退役軍人や軍隊経験者がPTSDを患い仕事を得られないことでホームレスになってしまうケースも非常に多い。精神病になってしまうのは仕方がないとして(遺伝的、環境的要因もあるし)、そういった人々を受け入れるためのセーフティネットがないことで沢山の人がホームレスにならざるを得ない。更に、この街に蔓延するドラッグの問題もホームレス問題の一旦を担っている。この街に少し暮せば、どの場所でも容易にドラッグが手に入ることがわかるはずだ。そしてそのドラッグがあたかも当然のように人々の間で使われていることも気づくだろう。それはまるで映画で見た光景のように、自分の近くにある。もはや廃人と化したドラッグアディクトは手に負えず、ホームレスに身を落としても薬に手を染め続ける人も少なくない。とあるドラッグアディクトに対して、頼むからといってまだ未使用の注射器を渡したことがあるが、そんなことが人助けになるこの街、この国は狂っていると思う。

ある日、コンビニで煙草を買おうとした時に、体中にタトゥー、大きなピアス、カラフルな髪の毛のコンビニ店員さんに話しかけられたことがある。「この街に引っ越してきたのかい?住んでるの?正直いってこの街で暮らすのは怖くて仕方がないよ。見えるだろ、そこら辺にいるホームレスがさ。明日はこうなるかもしれないって考えない日はないんだよ。」始めて、この街にきてからこの問題に関して生きた声を聴いた気がした。別になりたくってコンビニ店員になったわけじゃないし、いつ首を切られるともわからない状態で暮らすのは不安だろう。更にこの街ギャングの問題もホームレス問題に間接的に関係している。アメリカの主要都市によくある問題だけれど、それはこの街においても例外ではない。ギャングを含む低所得層が住む地域はGentrificationによって家賃の高騰や生活に費用とされるコストが跳ね上がる。それによって治安は上がるがそういった人たちは家を追い出されるか、更に郊外のエリアへの移動を余儀なくされる。ポートランドで言えば82ndストリート以降は危険地域とされ、銃声が聞こえる日もしばしばある。少なくとも、僕の家の周辺では半年で4件の殺人事件が起きている。

hiroshi ujiieday