ESSAYS IN IDLENESS

 

 

HIGH ROCKS PARK

何年か昔にLIFEの古本を上野の不忍池の露天で買ったことがある。その時はうだるような暑さで、日陰のない池のの周りを影を探しながら歩いていたような気がする。すると、怪しげな露店がちらほらと並んでいるのが見えた。古いカメラや使いみちのよくわからない小物に紛れてくたびれたLIFEの山があった。その中からひときわ眼を引くLIFEを見つけ出し、たいして安くもない値段で買った。表紙は白黒で、アマチュアの自然写真特集だったと思う。ページをめくると、裸で川に飛び込む男女が見開き2ページに渡って大きく印刷されていた。それはまるでライアン・マッギンレーの写真が白黒になったように、自由で、迫力があって、美しかった。なんとなくアメリカの自然を思い浮かべると何故かいつもその写真のことが頭に浮かんでくる。ハイロックスパークというこの日に行った公園を見ながら、その風景が頭の中に鮮明に浮かんできた。水は目が覚めるくらい冷たくて、暑い日差しが川沿いの石を熱していて裸足では歩けないほど。川の上にかかった橋の橋脚にはグラフィティが施されている。風にそよぐ川沿いの木々や雑草の音を聴きながら、日光浴をしながら寝そべっている人たちの脇をすり抜けながら、気持ちよく流れる青色の川のそばに腰をおろした。この公園の一番の見所は高さ7-8mはあろうかという場所から川に向かって飛び込むことができるクリフジャンプ。子供も大人も、やんちゃなティーンネイジャーもこぞって度胸試しと言わんばかりに何度も飛び込んでいく。絶叫しながら飛び込む人や、くるくると回転したりトリックを決めながら飛び込む人。みんな楽しそうにそのスリルを味わっていた。その一方で水深の浅いところでくつろぐ家族連れや、ボートで川下りを楽しむ人達もいる。川沿いで水着で日光浴をするおばあちゃんもいれば、ドギマギしながらお互いの水着をチラチラ見ている大学生と思しきグループもちらほらいて、こちらのほうが微笑ましくなってくる。僕も手早く着替えて、水に身体を慣らす。試しに3mくらいの高さから飛び込んでみたけれど予想の2倍くらい怖い。まず足が水底につかないし、自分の身体が飛び込んだ高さと同じくらいまで沈んでいるような気がする。水面までなかなかたどり着かないし、飛び込んだ時の衝撃でだいぶ肺から空気が抜けてしまう。しかしその程度でクリフジャンプを諦めめられないので、そのジャンプ待ちの列に並ぶ。5-6歳の男の子ができているのだから自分にできないはずがない。実際、遠くから見ると簡単そうに見えるのに、崖の際に立つと恐怖感が襲ってくる。川の向こう岸からこちらを見る友達がニヤついているのがわかるのだけれど、恐怖を感じていることを悟られてはいられない。思い切って助走を付けて崖から踏み出す。お腹や股間の辺りが竦み上がるような感覚を覚える。水面までの距離がなかなか縮まらない。人生の中でこれほど地面を感じていない瞬間があっただろうかと思えるほど長いこの時間。秒数にしたら3秒程度なのだろうけれど果てしなく長く感じる。着水の瞬間は正直良く覚えておらず、激しい衝撃が尻を直撃する。そのまま深く深く、深く水の中に沈んでいき、水面のほうを見上げると光がうっすらと見えた。そこからもがくように手を必死に動かして水面に顔がでるまで泳ぎ続けた。水面に顔をだすと友達や周囲の人がこちらを見て微笑んでいるのがわかる。この癖になる恐怖をこの日なんどか味わって、疲れ果てたところでこの日はお開き。帰りのバスでは心地よい身体のほてりと疲労感が身体に残っているのを感じた。アメリカの夏の楽しみ方が少しずつわかってきたような気がした。

hiroshi ujiieday, outdoor