ESSAYS IN IDLENESS

 

 

SUBURB IN WASHINGTON

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この旅行の本番はむしろここから始まっていたのかもしれない。タコマの近くの小さな街に住んでいるブランドンの車に乗り込み、シアトル郊外にある滝へと向かう。その滝へ向かう途中、ルートを間違えて別の橋脚の下に入っていってしまったのだけれど、そこに入ってくる光と、橋脚に大きく描かれたグラフィティが美しくて、郊外の為し得る光景の美しさに暫く見入っていた。橋の影に隠れてマリファナを吸いながら世間話をする女性二人組や、僕達と同じように道を間違えて橋脚の下に入ってきてしまった太っちょの女系アフリカ系アメリカ人家族。彼女らと話をしながら滝の上を目指した。この滝はツイン・ピークスのオープニングに出てくることで有名らしいのだけれど、そんな陰鬱な雰囲気は一切なく観光客で賑わう美しい自然鑑賞スポットに違いなかった。ひとしきり眺望を楽しんだ後、河口の方へ伸びるトレイルへと向かう。川べりではたくさんの家族が水遊びをしていたり、ゆったりしていたりする。川沿いの石は太陽の熱でやけどをするくらい熱くなっていて、裸足で歩いた足の裏がやけどをするほどだった。その足の裏を川の水で冷やして、疲れたら木陰で休む。夏を楽しむ人達を眺めているだけで心が洗われ、シアトルを歩き回って悶々とした気持ちがすっと流れるような気がした。

その後、オーバーンという街へ寄ると何故か日本の盆踊り大会がやられていた。なぜ彼らは盆踊りに興味があるのかわからなかったけれど、とりあえず楽しそうだった。何を勘違いしたか、よくわからない何かのアニメか、どこかの民族衣装のコスプレをしたおじさんがちょこちょこ混じっていたけれど、そういう混沌とした盆踊りもそれはそれで面白いと思えるものだった。ブランドンの家に行く前に、彼がよく行くという近所の湖へと向かう。まさに夕焼けに染まりかける湖はとても綺麗で、ボートのドックや桟橋から勢い良く飛び込むサモア系の少年や少女、大きな水しぶきを上げながら太っちょのおじさんが飛び込み、その飛沫が陽の光をうけて宝石のように輝いていた。悪そうな少年たちがマリファナをふかしながら、ヒップホップを爆音で流し始めたり、その脇では子供が浮き輪を持って走り回っていたり、これがきっとアメリカ郊外のリアルな風景なのだろうと思う。この郊外の風景の断片全てが夕焼けに包まれ、湖から反射する光が彼らを照らしている。彼らが湖に飛び込むたび光の中に吸い込まれるように見え、その景色に長い間見とれていたように思う。湖のそばの公園ではBMXに裸足でまたがる少年や、スケートボードにまたがってバンクを滑り降りる少女たちが楽しそうに遊んでいた。自分のトリックをひたすら練習するスケーターと世間話をしながら、初めて本当の郊外の雰囲気に触れられたような気がして嬉しかった。子どもたちは思い思いの方法でBMXやスケートボードを操り、たまに転んだり、怪我をしても泣きもせず、笑いながらいつまでも遊んでいた。そのうち日が暮れると、警察官が見回りに来て公園の戸締まりをし始めると蜘蛛の子を散らすように子どもたちはあっとう言う間にどこかに消えてしまった。取り残された僕たちは広々としたバスケットコートを一度見回して、沈みかけている夕日を見ながら帰路についた。その途中、アメリカで一番美味しいファストフードはタコベルだろということでブランドンと意見が一致したので、タコベルをドライブスルーで買って帰った。

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