JULIE BYRNE @THE OLD CHURCH
夜の8時も遠に過ぎているけれど、ステンドグラスに明るく光が差し込んでくる。この教会でライブを見るのは何度目かになるけれど、静かでひんやりとした空気感、傷ついた木製の椅子の硬さや、すべすべとした壁の質感が相変わらず素晴らしいと感じる。というよりも、普段接点のないこの教会という空間自体にある種のあこがれというか、畏敬の念のようなものがあるのだろう。ライブが始まる前にはガラガラだった教会が満席になるまで埋まる。僕の前後左右はなぜか60歳も過ぎているように見えるおじいさんたちだったのだけれど、Julie Byrneの音楽はこの世代にもどうやら響いているらしい。その事実に驚きを隠せないのだけれど、この人のことを知っている人なんて日本にどれくらいいるのだろうか?
ライブ前に物販を見ていると、物販を並べている人がアーティスト本人であることに気づく。スカーレット・ヨハンソンを少し崩したような顔立ちは、レコードのジャケットで何度も見たとおり。ライブ前日に風邪をひいてしまったらしく、何度も咳払いをしながら「ごめんなさい、ベストを尽くします」と何度も言うひたむきな姿勢が素晴らしく、スノッブさとかヒップさとかそういう概念からは遠く離れたところにいるのだろうと思う。ライブが始まると、彼女の声の素晴らしさを改めて実感する。力強くないが、芯があり、霧がかかったように篭った声なのに清涼とした印象を覚える。古い楽器を演奏したときのような感じといえばわかるだろうか?それか古いレコードから聞こえてくるような音楽なのかもしれない。声を張り上げもせず、気を抜いたように淡々と歌いながらも、会場全体にじんわりと広がる煙がかったような彼女の声は、ギターの演奏のシンプルさも相まってより神聖なものに聞こえていた。普段喋る時の声と歌う時の声がまるで違うのにも驚く。そしてその違いは彼女の音楽をより特別なものにしていたとおもう。ライブが終わると何人もの人たちが物販のところにならび、いつまでたっても途切れることがなかった。サインをレコードに書いたりしながら一人ひとりのお客さんと話し向き合う姿が非常に印象的だった。彼女の存在、そして彼女の歌はこれから自分が年を取っていったとしても、いつまでも自分の残り続けるだろうと思う。彼女の歌はタイムレスであり、それは自分にとっても同じことだと思うから。