ESSAYS IN IDLENESS

 

 

A ROAD TRIP THAT REMINDS ME LANDSCAPES OF AMERICA -DAY2-

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DAY2

海沿いの街に向かって車を走らせながら、この日の運転はどうやら400マイル、9時間を超えそうだということがわかってくる。写真を撮ったりする時間も考慮するとまったくゆっくりしている時間はなさそうだ。バーンズの街を早々に出発し、砂漠のど真ん中のハイウェイをただひたすらに走っていく。まさにバニシングポイントに出てきそうなどこまでもまっすぐの一本道。パトカーの存在をバックミラーでチラチラと確認しながら、速度をできる限り早く保ちながらつぎの街を目指す。この日最初に走った道はベテランメモリアルハイウェイと名付けられた道で、舗装されていない荒れた箇所がところどころあり、気をつけていないととんでもない事故を起こしそうで恐ろしい。もしこんな灼熱の太陽の下、人通りもほぼないような道で事故を起こしたら下手したら死にかねない。そんな道を1時間ほど走った後、偶然見つけたハイウェイ沿いの廃ダイナーのような場所で一服するために車を寄せる。するとカフェの奥から上裸で長髪の男が何やらブツブツ言いながら飛び出してきた。怪しげな匂いを醸す煙草を片手に携えながら、どんどんと近づいてくる。まるで中毒末期症状の時のジョン・フルシアンテのような風貌だった。最初は気の触れたヒッピーかと思ったけれど、どうやら数ヶ月以上ぶりに車が止まったみたいで嬉しくて出てきてしまったらしい。彼は21歳の時にこの道路沿いのモーテルを買い、近々この場所にカフェ、ガススタンド、モーテルを再建するつもりで住み込みで補修工事をしているらしい。その夢を生き生きと語りながら、モーテルやカフェなどを案内してくれた。彼は現在二匹の猫とともに、モーテルの一室に居を構えている。遠くに住むガールフレンドに電話するために数マイル先の小高い丘に行って電波を捕まえる話だとか、砂漠地帯のガラガラヘビと格闘した話だとか、マリファナ栽培のビジネスの計画だとかを真摯に語ってくる。結果としてはクレイジーなヒッピーであることは変わりないのだけれど、この出会いはとても得難いものになった。僕がスモールタウンだけを巡って旅をしていることを伝えると、緩んだ笑顔で、「お前は本当にわかってるな。この先30マイルほど先にクリスマスバレーという名前の街がある。行くといい」だとか、「更にその先のサマーレイクという場所はきっと気にいると思うぞ」というアドバイスをくれた。僕の当初描いていたコースとはだいぶ違ったのだけれど、このヒッピーの言うことに従わないなんてできるだろうか?「三年後には必ず再開しているはずだから、またオレゴンに来たら立ち寄ってってくれよ!」と言い残してまた部屋に戻っていった。そして僕は彼の言っていた街を目指してルートを変え、車を走らせていった。

クリスマスバレーはサンタクロースがいるという噂の街らしく、そのシーズンになると世界中から手紙が届くらしい。その実、絵に描いたような小さな街で車で一周りするのに10分もかからなかった。サンタクロースの置物でもあるのかと思ったらそういうこともなく、小さな商店がいくつか並ぶだけの質素な街だった。そこから海を目指して車を走らせると、絵に描いたように美しい湖が見える。波一つ立っていないまるで鏡のような湖面は空の美しい青色を反射している。湖の周辺にいくつもの牧場があり、その牧草地帯と湖の境界の部分は真っ白な砂浜だった。この湖の周囲をドライブしながらその美しさに何度も眼を奪われるのだけれど、どうやらこの湖がサマーレイクらしかった。間違いなく自分が見た湖の中では一番綺麗だった。その湖の畔にサマーレイクRVキャンプ場という場所があり、中に入ってみるとその様子はさながら小規模なヒッピーコミューン。長髪ワンピースの妙齢の女性や、上裸で長髪の男が「やあ!」と気軽に声をかけてくる。「写真は好きなだけ撮っていってくれよ!」と気さくに声をかけてくれたので、奥までずかずかと入っていく。自給自足のためか畑やら牧舎なども完備していて、まったく近代化とは縁がなさそうに見える。この美しいサマーレイクを眼前に望みながらキャンプができるなんてこれ以上の贅沢はそうそうに考えつくものではないだろう。空にほわほわと浮かび流れる白い雲、この場所に流れる気持ちのいい風。その風に気持ちよさそうにたなびくヒッピーの洗濯物。この場所の雰囲気をじんわりと身体に取り入れながら、いつまでもこの場所に留まりたい、なんなら一泊ゆっくりキャンプをしてみたい。そんな気持ちが湧き上がってくるのだった。なんだか想像以上にゆったりとしてしまって、自分の持ち時間が幾ばくもなくなってきている。早く目的の街にたどり着かなければ、また過酷な車中泊になってしまう。流石に2日連続での車中泊は翌日の旅に支障をきたすであろうことは明白なので、出来る限り急ぎながら目的の街を目指した。この日このルートを辿ったことは正しかった。あの時ヒッピーの言うことを信じてこの道を選択してよかったと思える。こうした予期しない出会いと選択が、旅の一番の楽しさだろう。

hiroshi ujiiejourney