ESSAYS IN IDLENESS

 

 

THE ROAD TRIP PART1 -OREGON TO WYOMING-

足掛け一週間に及ぶロードトリップが終わった。オレゴンからアイダホ、アイダホからワイオミング、そしてモンタナを通り過ぎ、ワシントン州へ。述べ5州、移動距離は2000マイルを超える旅となった。日本を縦断できるほどの距離を旅したとは思えないのだけれど、確かにずっと移動をしていたような気がする。毎日宿につく頃には何かをする力もないくらい疲れていて、翌朝は気持ちの良い光で目が覚めたり覚めなかったりした。旅の目的地はアメリカ有数の国立公園であるイエローストーン。我ながらベタ過ぎるなと思いつつも、その道中の風景も含めて余すところなく楽しめたつもりでいる。

オレゴン南部のベンドという街を目指して車を走らせる。山間の道を進んでいくと、トレーラーやキャンピングカーがたくさん走っている。むしろ、観光バス並に大きなキャンピングカーがタコマやダッジを牽引してたりする。(逆だろ!)道路脇の森林の緑とトレーラーの白い色、そして青空が綺麗なコントラストに見える。それはアメリカの人たちの週末の過ごし方を感じることができる瞬間でもあるのかもしれない。蛇行する道すがら、時折5月末になっても冠雪しているフッド山が見え、3000メートルを超えるその高さ故に、目の前に姿を表したその瞬間の感動は大きい。たまに窓ガラスに反射する光の美しさを感じながら、今日の目的地であるモーテルへと向かう。モーテルの近くの国立公園では険しく大きな岩山がそびえ立つ。夕日とオレンジがかった空を背景の中に佇む圧倒的な大きさの岩山、そしてその壁面にすがりつくたくさんのロッククライマー。岩山の頂上を目指す登山者や、彼らについていく犬や馬。もし自分が動物に生まれたとしたら絶対にアメリカが良いと思う、なぜなら毎日散歩でこんなにすごい景色の場所で思いっきり遊べるのだから。360度どこをみても絶景しかないこの場所で少し休んで、また車を走らせてモーテルへと向かった。モーテルへ向かう途中に見た、オレゴンの田園風景。夕方の時間帯に吹く気持ちの良い風に、馬の鬣がたなびく。ボロボロのランチハウスが赤く染まり、美しい陰影を描き出す。牧草に日光が反射してきらめく。こうした風景を見るために旅に出たのだとこの時確信したのだけれど、残念なことに運転していたので写真に収めることができなかった。心の中で何百回もシャッターを切ったつもりなんだけど、やりきれず、写真に取れなかった風景達がいつまでも目の奥の方に残っていたような感覚を覚えた。

次の朝、アメリカの田舎から田舎へ車を走らせる。今日はオレゴン南部からからアイダホ南部を通過し、ワイオミングへと向かう。目的地はイエローストーンの麓にある宿だ。車窓から流れる景色は昔見たロードムービーでみたような景色そのままで、広大な平野の向こう側には何も見えない。ただ平野の中を高速道路がまっすぐ突き抜けている。高速道路は穴だらけで、破裂したトラックのタイヤの破片や、轢死した動物の死骸が無残に転がっている。たまにガスを入れるために立ち寄るハイウェイ脇のガススタンドで、いかにもっていう風貌のトラックの運転手が不満そうに煙草をふかしているのをそっと気づかれないように眺める。気づくともう夜の10時になり、空は深い青色に変わっている。バックミラー越しに見える沈んでいく夕日が信じられないくらい綺麗で、その淡いオレンジ色の光の中で後続車のライトが輝いている。宿に到着した頃にはもう真っ暗で、早々にシャワーを浴びて次の日の運転に備えた。

翌朝、少し早く目が冷めたので宿の近くを散歩する。昨夜は気づかなかったけれど、宿の周りは牧場や牧草地体の広がる絵に描いたようなアメリカの田舎だった。近くには小さな川が流れていて水のせせらぎの音が聞こえる。冷たい風が心地よく吹いている。その風の中で煙草を吸っていると鳥や牛の鳴き声が聞こえてくる。背伸びして朝日を存分に味わうのが本当に気持ちよかった。その後朝食を手早く済ませ、約2時間程度でこの日最初の目的地のグランドティトン国立公園へ到着する。この公園はいわゆるお金持ちのリゾートといった感じで、たくさんのヨットやクルーザーが停泊している。湖を見ながら昼食を取った後、イエローストーン国立公園へと向かう。道路の脇には草原が広がり、たくさんの花々が色を付けていている。もしかしたら今アラスカもこんな景色なのだろうかと、前回の旅を少しだけ振り返りながら運転をしていた。イエローストーン内を車で移動する。イエローストーン国立公園自体、「公園」という言葉の定義を遥かに上回る大きさで、とにかく信じられないくらい大きい。道中、グリズリーの親子や、エルク、コヨーテや鹿などたくさんの動物を見ることができた。バイソンは数え切れないくらいいて、ゆっくりと道路を横断するために公園内の道路は何度も渋滞が起きていた。その度に公園のレンジャーの人が大急ぎで駆けつけ交通整理をするのだけれど、彼らの努力を少しも気にすることなく、彼らはゆったりと道路を歩いていた。あまつさえ、道路に巨大な糞を残していき、僕は僕の車がその巨大な糞を轢いた時の音を聞いてしまった。その日の夜に宿へ向かう途中、道路で眠っている鹿を轢きかけたのだけれど、もし轢いていたとしたらタダでは済まなかっただろう。映画ディアハンターで主人公の乗る車が鹿を轢いてしまって、窓ガラスが全壊する絵が頭の中に思い浮かんだ。

イエローストーンレイクという公園中心に位置する湖はまるで鏡のように綺麗で、途方もなく大きい。向こう岸に見える山は本当は高いはずなのに物凄く小さく見える。波もほとんど立たないので水面に雲が綺麗に移っているのが見える。湖の脇に積もっている雪を投げ込むと、音もなく波紋が広がる。魚の影は見えず、時が止まっているように静かな湖だった。この日見た数々の間欠泉もすごく美しかった。遠くから見ても位置がわかるほど、大きな蒸気が立ち上っている。水の色はエメラルドブルーで水底が見通せるほどに透き通っている。バクテリアや水中の成分の影響で、黄色や黄土色、橙色になった地表とのコントラストが美しい。そしてその中に佇む樹木は真っ白に変色し化石のようになっている。まるでここが地球でないかのように思える景色だった。太陽や雲、青空全てがこの透き通った間欠泉に鏡の反射して映る。罪悪感を覚えるほど、贅沢な光景を見ているような気持ちにさせられる場所だった。イエローストーンの夜は寒く、この季節でも10度を下回る。シャワーを浴びた後にウッドデッキに出て、カントリーソングを聴きながら煙草を蒸している時間は至福以外の何物でもなかったけれど、鍵を忘れて締め出されたときには一瞬死を覚悟したほどだった。

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