THE ROAD TRIP PART2 -MONTANA TO OREGON-
イエローストーンを出て、モンタナ州のミズーラという町へと向かう。この旅の最終目的地であるマウントレーニアへ行く途中の中継地点だ。その日は夕方には宿についてから晩御飯を作りながらダラダラと過ごした。宿は田舎の山間にあるコテージのようなところで、ウッドデッキの軒下には小さなうさぎが住んでいる。裏は山で、時折鹿が何匹か駆け下りてくるのを見かけた。煙草を吸いながらぼーっと日が暮れるのを眺めていると、このまま廃人になってしまいそうな予感がしてくる。コーヒーを飲んだり、音楽を聴いたりしながら静かに山の中で暮らすというのも悪くないというか、むしろ最高だと思うのだけれどあまりに心地よすぎて非人間的な営みにすら思えてくる。そんなことを考えているうちに日は沈みあたりは夜になってしまった。動物の鳴き声があたりに聞こえ始めた頃、星が空一面に輝きだしていることに気づく。そのせいで空はいつまでたっても真っ暗にはならなかった。
次の日は昼前に起きてモンタナ州からワシントン州へと移動をする。ワシントン州ヤキマという郊外の町の一軒家がこの日の宿だ。ワシントン州へ向かう途中の景色はこれまでのどの道中の風景とも違っていた。徐々に都市へと向かうことを予想させるように、少しずつ町が大きく、そして発展していくのが感じられた。道すがらのガソリンスタンドで煙草を吸っていると、黒人の怖そうなおじさんに話しかけられる。どこから来たのかと聞かれたので、オレゴンからイエローストーンを回ってきてます、と答える。嬉しそうにアメリカの良さを喜々として語るおじさんをみて、ポートランドを出てから初めて黒人の人を見たということにふと気づいた。僕たちはこの度で幸運にもこれまで何の差别も受けてこなかったけれど、それはすごく幸運なことなのかもしれないと思った。モンタナから6時間ほど高速を走らせるとヤキマの街へとついた。ヤキマの街はいわゆる普通のアメリカの郊外で、特筆すべき点は何もないような街だ。言い換えればまさに郊外といったような町並みともいえる。住宅街は僕の住むハリウッドの町並みと似ていて、家の形も、通りの雰囲気もほぼ同じように思われた。この郊外の雰囲気を写真に撮りたくて街に飛び出したけれど、僕が写真を撮り始めるとすぐにあたりは暗くなってしまった。ボロボロの車が放置されていたり、誰が住んでいるのかわからないような家があったり、線路や、貨物列車のコンテナ置き場があったり、晴れて明るいうちだったらきっと素晴らしい写真が撮れたに違いない。2時間、約5マイルくらい歩き通して疲れて家に戻ると、そのままソファに横たわって気づくと朝になっていた。
この旅の最後の朝。今日の目的はマウントレーニア、ワシントン州で一番有名な国立公園だ。この日のマウントレーニアは雪と雨、濃霧がひどく車で山道を登っては見たものの肝心のマウントレーニアは臨めなかった。しかしながら途中で見える滝や渓谷は絶景で、何度も足を止めながらゆっくりと見て回った。あちこちに流れ出る滝や、雪に埋もれて凍った湖、まだまだ冬の様相を残したこの山の美しさは非常に素晴らしかった。綺麗な青色をした鳥を餌付けしてみたりしながら霧がかった山の風景を味わう。僕らが山の中の道をぐるぐると回っている間に、徐々に霧は濃くなってくる。しかしさすがにこれ以上は危ないということで予定を切り上げてポートランドに戻ることになった。なんとなく歯切れが悪かったけれど今回の旅はここまでということだろう。ポートランドに戻るとどんどん天気は回復して、気温も高くなる。夏に、見慣れてた風景に戻っていく。
帰り道に考えていたことは、旅の目的地として置いた点よりも、その点を結ぶ線のほうが自分にとっては大事なのかもしれないということだった。というよりも今回の旅で確信できたと言っても良い。オレゴンの広大な田舎道や、アイダホのハイウェイで見た夕焼け。モンタナで気持ちよく吹いた風。郊外のスーパーマーケットに来るおじさんやおばさん、道路脇に見えたダイナーやモーテル、ガソリンスタンドの看板。写真に取れなかった風景達。もし自分が車から降りて歩いて近づくことができたらという思い。どこにでもありそうで、そこにしかない景色。また出会えるような気がするけれど、もう二度と出会わないであろう光景。思い出せそうな気はするけれど、もう既に曖昧な輪郭になってしまったそれらの景色は風に溶けて消えてしまっている。こんなにたくさん運転したのに、それはアメリカの大地のほんの一部でしかなく、ぽっかりと空虚なものを胸の中に感じたことも確かだった。その虚しさや悔しさに似た感情を埋め合わせるためにまた旅に出たりするのだろうけれど、この気持ちはいつかなくなるときは来るのだろうか?ひとまず身体を休めて、写真でも見ながらゆっくりと旅を振り返ることから始めようと思う。