ESSAYS IN IDLENESS

 

 

5000 DICKS AND 10000 TITS

今日が何の日かといえば、Naked Bike Rideの日である。単純に言えば素っ裸で自転車に乗るという大規模なイベントだ。単純に言えばというか、それ以上でもそれ以下でもないのだけれど。リベラルな西海岸を体験できる貴重な機会だと思い、この日は何の予定もいれずこのイベントを見に行くことを決めていた。どうやらイベントは夜かららしく、日中は特にすることもないので日がなヤードセールめぐりという、これまたアメリカらしさのあることをしてみることにした。郊外行きのバスを待っていると陽気な黒人のおっちゃんに「トランスフォーマーの最新作は最高だな!」話しかけられる。なんとなく一日の出だしとしては最高の気分になってしまう。ヤードセールは大小様々あり、この春先から夏にかけては特に多く開催されているように見える。見つけ方は単純で、郊外の住宅地を歩いていると、電柱や交通標識のポールに手書きで住所とサインが書かれているのでそれを頼りに目的地を探すだけだ。明らかに入らないものをただ広げている場合もあれば、誰かの遺品整理として故人の思い出の品々を出品している場合もある。この日はどうやら当たりを引けたらしい。もともと軍の上層部で働いていた、文化勲章を受賞したこともあるという家主が亡くなってしまったらしく、その人の遺品がたくさん出品されていた。1000冊はあろうかという書物や、イーゼル、暗室用品、使い古されたフィルム、レコード、CD、絵の具や絵筆、トロフィー等、その日の気温が30度を超えていなければもっと入念に見れたであろう品々が広い庭に所狭しと広げられていた。あまりに暑すぎて判断している余裕がなかったので、1960-70年代に撮影された8mmフィルムを大量に買い込み、手早くそのヤードセールを後にした。故人が所有していたカメラはどうやら前日に全てカメラ屋に売り払われたらしい、なんということだ!!!!

時間も時間なので、そのまま今日のメインイベントに移動する。Naked Bike Rideは毎年集合時間と場所だけ決められていて、出席に必要な条件もなければ、どのコースを走るかも決まっていない。集まった人たちが走ったところがコースになる。仮にこの日車を運転していたとして、路上でこの集団に捕まると、一時間この列が途切れるまで道を横切ることはできないらしい。イベント会場のFernhill parkに近づくにつれ、自転車の人が次々と会場に走り込んでくる。イベント前から既に全裸の人たちが何人も駆け込んでくるのをみて、こんなことは絶対にアジア圏では起きないだろうということを考えていた。「これがアメリカだからな!!」と僕の前にいた陽気なアフリカンのお兄さんが声高に主張する。周りの民家では庭にビニールシートや椅子を出し、鑑賞の準備をばっちりと整えた人たちがリラックスしながらお酒を飲んでいる。暇を持て余した子供が地面にチョークでちんこの絵を描いていたのは思わず笑ってしまった。いざ、公園に入るとそこはウッドストック・フェスティバルの会場かと思わず見紛う、それほど裸の人たちしかいない。遠巻きに見ても視界に飛び込む肌色の割合がおかしい。その中の何人かはスピーカーを持ち込んで爆音でビートを流している。裸で踊り狂っている人や、裸でラグビーのポールによじ登る人、マリファナをふかしたりしている人、様々な人が様々な格好でこのイベントに続々と集まっている。おそらく、その数は10000を超えているだろう。一生のうちにこれほど裸を見る機会などあるまいと思うが、こんなイベントが毎年どこかしらで開催されているなんて狂気以外の何物でもないと思ってしまう。時間が夜9時を過ぎ、周囲が暗くなってくるとようやくスタートになった。誰が合図をするでもなく、公園の出口から続々とバイクが走り出していく。もはやバイクが多すぎて自転車を漕ぐことが困難なため、半数以上の人たちは自分の手で自転車を押しながら歩いている感じだ。このイベントに集まった人たちは本当に多種多様だ。これほど多種多様な人たちが集まっていることを意識させられる瞬間もないだろう。白人、黒人、アジア人、男性、女性、ジェンダーマイノリティ、ドラッグクイーン、ヒップスター、パンクス、ホームレス、スケーター、DJ、変態、筋肉自慢、ナード、ギーク、赤ちゃん、幼児、ティーンネイジャー、おっさん、おばさん、おじいちゃん、おばあちゃん、ちんこの大きな人、小さい人、胸の大きい人、小さい人、一輪車に乗っている人、ワンダーウーマン(のボディペイントしている)、ここに上げきることもできないくらいの多種多様な人たちが(おそらくイスラム教信者の女性以外)ほぼ生まれたままの姿で自転車に乗っている。処理速度が追いつかず、頭の痛くなるようなこの混沌とした状況。僕の周りの観客も列が切れるまで笑いながら応援をし続けていた(もちろん観客にはおじいちゃんやおばあちゃんも含まれる)。もし、僕がまたこのイベントを見れる機会があったら、絶対に参加するだろう。その時はレッド・ホット・チリ・ペッパーズのあの格好で、この集団と同じくらい馬鹿になってみたいものだと思う。帰り道にコンビニによると、レジに素っ裸の人たちが普通に並んでいて思わず吹き出してしまう。ここは銭湯じゃないぞと思いながら、この街の自由さにまた感動してしまった。

hiroshi ujiieday