ESSAYS IN IDLENESS

 

 

Multnomah Falls

ポートランド観光の代名詞の一つ、マルトノマ滝。市内から車で50分程度でいける絶景だ。待ち合わせ時間は夜の7時。もう日本なら日も沈む頃なのにまだまだ明るい。若干日もだいぶ傾いてくる時間帯のアメリカのハイウェイは走るだけで綺麗だ。オレンジに染まった夕日がアスファルトに反射する。正面には道路標識の黄色、右手には明るく光る森の緑と、左手には深い青色に染まったコロンビア川が流れる。ハイウェイは空いていて景色が足早に流れていく。たまに大きな貨物を積んだ長い長い列車と並走しながら、8時前くらいに登山道の入口についた。

マルトノマ滝はポートランド近隣で最も高いフッド山の麓にある。この滝は近隣では最も大きく落差が180mくらいあるらしい。頂上から落下する間にその多くが水しぶきになり、初夏の風に乗って僕達に降り注いだ。最近は本格的な夏の訪れを感じるくらい暑い日が続いていたから、心がすっとするような涼しさを味わいながら長いこと滝を眺めていたように思う。流石に風と水しぶきを浴びすぎて寒くなってきたので登山道に入る。細かくジグザグと進む簡易な登山道だけれど景色は本当に美しい。木々の間を縫って道に落ちてくる夕日の日差しや、その木々の間から見える川の青。たまに鹿が山の上から駆け下りてきたりもした。森林の空気は冷たく澄んでいて、緑の匂いがする。三人で言葉少なく自然を味わいながら時間をかけて滝の頂上を目指した。頂上を目指す途中、その少し手前に川に大きな朽木がせり出したように倒れているのを見つける。バランスを取りながらその木に登ると、川のせせらぎや、その川の流れが引き起こす冷たい風、そして木々の葉っぱがこすれる音、その全てを自分の身体で感じることができた。日もだいぶ傾き、森の中はだいぶ暗くなってきている。ほの暗い景色の中で、川の水が青白く光りながら自分の足元を流れていた。「そろそろ暗くなってきたから早めに上を目指そうか!」とテレンスが言う。彼のガイドに続いて、残り少なくなった登山道を足早に登っていく。そこから3分程度歩いたところにビューポイントがあり、滝上から周囲の景色を一望できた。足元には滝、正面には夕暮れに染まる山脈やコロンビア川。いわゆるマジックアワーで全てが深い青い光で包まれていて幻想的だった。山の稜線だけがオレンジ色に染まっているのは本当に綺麗だった。ハイウェイを走る車のバックライトが赤く線を描くように流れる。それがやたらと感傷的で、いつまでも眺めていたいと思える景色だった。この美しい時間は長くは続かず、5分くらいすると辺り一面が夜の暗さになってしまう。3人で夜道を手持ちのライトで照らしながらゆっくりと下っていく。その頃にはもう気温はだいぶ低くなっていて、涼しいというよりはもはや寒い。黒い影になった木々の隙間から深い青になった空と、更に深い青色になった雲が流れていくのが見える。夜明けや日没前のこの時間帯の森というのは、人間の眼だけが美しさを捉えることができる時間帯だと思う。僕が実はこの時間帯の森を歩くのが好きなんだと伝えると「だからこの時間を選んだんだ」というテレンス。こうした感覚を分かち合える友人をアメリカで見つけられたことを、本当に嬉しく思った。

hiroshi ujiieday, outdoor