AMINÉ @CRYSTAL BALLROOM TO A CRAZIEST NIGHT EVER
Red Bull主催のショーケースが木曜から土曜の三日間にかけて行われた。初日はロック、二日目はエレクトロ、三日目はヒップホップという並びで、特筆すべき点としては全てポートランド出身のアーティストで固められていることだ。初日はAlvvays、二日目はNAO、三日目はAminéという豪華な並び。各日チケットがたったの$10というクレイジーさだったのでできれば全部見たかったのだけれど、訳あって三日目しか行くことができなかった。クリスタルボールルームはポートランドに来てから初めていったライブハウスで、今回が二回目。前回見たDaughterの印象はまだ記憶に新しい。メインアクト直前に会場についたら既に中は満員で、異様な熱気に包まれた場内は普通にクソ暑かった。いつも通りのウィード臭さと、それに加えた汗臭さも混じって不快指数は相当に高い。というかこの会場は空調というものが存在していないのではないかと思う。おそらく日本ではあまり知名度がなさそうなAminéだけれど、彼らのアンセム「Caroline」はYoutubeでは1億6000万回くらい再生されている。彼らは若干23歳前後で、キャリアは浅くてフルアルバムをリリースしてすらいない。それでいてこの人気の高さは異常だ。僕は対して彼らのことを知らなかったけれど、CarolineのPVでパルプフィクションのTシャツを着ていたという理由だけで行くことを決めた。
ヒップホップのライブで何が驚くかといえば, ほぼ全ての曲で客が決めのタイミングや歌詞までほとんど暗記しているということだ. もはやボーカルは歌わなくても曲が成立しているほど. とにかく客を煽りまくり, スラングをMCに過剰に折り込みながら歌い続ける. オーディエンスのテンションが爆発的に上がっていくのを間近で体験するのは興味深く, めちゃくちゃ太った女の子が汗だくになりながらラップを歌っているのを見るのはアメリカならではだと思う。「You are beautiful! / I know!」というコールアンドレスポンスが最高にキマっていて、何度も繰り返すうちに周りの女の子が心なしかアグレッシブになっているような気がした。彼らは多くの曲を持っているわけではなかったから、最初の15分くらいはDJで節操なくアンセムをプレイしまくり、その後新曲も含め10曲くらいプレイした後、1曲目にプレイした曲を最後にもう一度歌うという禁じ手を余裕で披露してくる。そしてなぜか来場者に対してドーナツをプレゼントして、グダグダなMCの後にライブがフェードアウトしていって終わった。それはそれで楽しく、なんというかそういう適当さとか格好つけ無さみたいなところも悪くないなということにしておきたい。
この日はこれだけでは終わらなかった。おそらくこっちに来てから最もクレイジーな一日といえるかもしれない。帰り道にベロベロに酔っぱらったカップルに絡まれたことから全ては始まる。彼らも同じライブに行っていたらしく、そして帰り道が一緒だったという理由だけでなぜか逃げ道のない状況に追い込まれる。一応最初は断ろうとしたのだけど、同じ話を三万回くらいしてもすぐに忘れてしまうので諦めて、流れに任せてみることにした。手始めに何故かめちゃくちゃデカいピザを奢られ、その後ウイスキーをしこたま飲まされる。文字通り道行く人全てに「ウィード持ってるか!」「パイプ持ってるか!」と訪ねまくり(たぶん100人以上に声をかけていた)、通りがかったスケーターの少年たちと「シャツレスラップだ!」といっておもむろに半裸になってラップ合戦が始まる。なぜかそこに通りがかったホームレスの黒人のおじさんが乱入してきて、普通にクソうまいラップを1コーラス分くらい披露して決着がついた。赤信号も余裕で渡っていって道行く車全てを止め「パイプ持ってない!?」とまた訪ねまくる。ただ一度も喧嘩にならず、この街に住む人達の度量の広さに感心したりもする。道行く人達の返しも気の利いた面白さで、例えば「I’m struggling!」「Struggle is real」という返しはなかなか気に入ってしまった。その後なぜかゲイクラブに連れて行かれて、えげつない容姿の方々にオーラ分析をされ、そのあとからあまり記憶がない。気がつくと朝の5時くらいで、見知らぬ部屋のベッドに寝かされていることに気がついた。どうやらここはビーバートンというポートランドから少し離れた街で、このカップルの部屋らしかった。部屋は一回も掃除も洗濯もしていないんじゃないかというくらい汚くて、その汚れた部屋の中を二匹の猫とパグとレトリバーが走り回っていた。ブラインド越しに朝日が入り込んできて、その光が汚れたボングを照らしていた。朝になって酒とかいろいろなものが抜けると彼らはだいぶ普通に戻っている、と思いきや戻っていなくて、起き抜けにベッドの上でウイスキーを飲みながら気持ちよさそうに煙草を吸い始めた。たぶん、ビート世代の作家はこれを遥かに濃縮したような破天荒な人生を送っていたんだろうなと思うほど、映画でみたような光景と重なっていたことに気づいた。出会い方からバーでの振る舞い、そしてベッドの上での仕草までなんとなく「バーフライ」のブコウスキーのようだった。そういえば、僕はこういうクレイジーさと脆さを持った友達が欲しかったんだっけと心のどこかでおもっていたような気もする。もし、この彼の顔がジャック・ニコルソンとフューチャーアイランドのボーカルを足して二で割ったような感じじゃなければ最高だったんだけど。