ESSAYS IN IDLENESS

 

 

ST. JOHN DISTRICT

セントジョンズブリッジを越えたあたりにある、ポートランドの中でも比較的歴史の感じられるセントジョンズ地区。ここはもしかすると”ローカルさ”の残る地域としてはポートランド内でも最高の場所なのかもしれない。おおよそ真夏日という土曜の昼下がり、AKAPDXというギャラリーに行く。その道中のバスの中から見る景色が、いかにもアメリカの郊外という雰囲気に変わる。線路やハイウェイ沿いを通り、廃れた家屋やだいぶ老朽化した民家が立ち並ぶ。木造の電柱には手書きのガレージセールやヤードセールの張り紙が無造作に貼られている。こうした家々を眺めたり、道行く人の素行を観察するだけでも相当に面白い。バスに乗ってくる人たちもちょっとユニークで、例えば割れた1メートル四方の窓ガラスを脇に抱えて入ってくる黒人のお兄さん(もちろん脇から出血していた)、陽気なバスドライバーに、近所でたった今買ってきたビールを片っ端から隣の人に配りまくるお兄さん(屋外での飲酒は法律違反)。いちばん好きだったのは、無言でバスの乗降をしていた、不機嫌そうなおじいさんがバスから降りた後にドライバーに向かってゆっくりとサムズアップを決めて華麗に立ち去る瞬間だった。

セントジョンズ地区は昔ながらの映画館やカフェ、バーが比較的多く残っていて、生き字引のようにテラスの席に張り付いたおじいさんや、バーの日陰席で昼間からビールをガバガバと飲む本物の荒くれジジイがわんさかといる。スターバックスでは仕事をする若者のかわりにおじいちゃんがチェスをやっていたりする。ポートランドのおしゃれな雰囲気とはまた違う印象が味わえる。一通り散策し、やる気のない接客のタイ料理屋で遅めの昼ごはんを取った後に公園へと向かう。だいたい地区の中心から15分くらい歩いたところにあるピアパークという大きな公園に向かう途中、スケートボードやキックボードに乗ったキッズたちとたくさんすれ違う。セブンイレブンから飛び出してきたと思えば、その手には1.5lペットボトルに入った極彩色のアイスを持っている。セサミストリートのキャラを全部混ぜたようなケミカルな色彩のアイスと、そのあまりの物量に驚く。更に驚いたことに次々とセブンイレブンから出てくる4-5歳の子どもたちまで同じような大きさのアイスを持っている。自分の顔以上の大きさのアイスを抱える子どもたちは愛らしく、どうせ全て飲みきれずに家に持ち帰って大半は捨てられてしまうのだろうけれど、その瞬間のためにこのアイスを買い与えてもいいと思えた。

ピアパークは静かで、人が少なく、とても涼しい。いわゆる公園といったような開けた場所は少なく、かなり背の高い木に囲まれた遊歩道のようなイメージに近い。木の背の高さというのがとても大事で、公園自体の開けた印象と、木々の隙間から差し込む日の光のバランスがなんとも言えず美しい。地面に落ちる日のひかりが小さな草木や花々を優しく照らしていて、ところどころ光のこもるような空間が偶然に出来上がっている。背の高い木の幹には縞模様の影が落ちる。公園の中ではピクニックやバーベキューをやっている家族が2-3組だけいて、広々とした空間を贅沢に使って大切な人たちと素敵な時間を過ごしているように見えた。都心から外れているだけあって、本当に人が少なくて静かで、日本の公園との違いを感じずにはいられなかった。公園の中を散策すると、少し外れたところに立派なスケートパークがある。その中では家族でスケートに興じる人たちや、真剣にトリックの練習をする若者までいろいろな人が楽しげにスケートをしていた。いつかまたここに来て、写真を撮ったりして人々と交流をしてみたいと思える素敵な場所だった。

hiroshi ujiieday