ESSAYS IN IDLENESS

 

 

TARA JANE O’NEIL @MISSISSIPPI STUDIOS

家で静かに本を読みたいときや、ただぼーっとしているとき、遠くに出かけて何かを考えたい時にいつも聞いていた気がする。Tara Jane O’Neilは長い間僕の側に寄り添っていて、もう10年近くにもなるだろうか。優しいギターの音と繊細で綺麗なボーカルは何者にも代えがたく、いつまでも色褪せることはなく大切な音楽であり続けた。彼女は何も難しいことはしていなくて、ただ歌って、ギターを弾いているだけだし、僕に至ってはろくに歌詞の意味すらも理解していないのだけれど、心にやすらぎを与える不思議な存在だ。なんとなくなのだけれど、僕の中ではエリオット・スミスがもし女性だったとしたらこんな曲を作っていたのではないかと勝手に想像をしていた。

舞台袖から出てきた彼女は、最初男と見間違えるほど地味だった。真っ黒いジャケットに真っ黒いズボン、ゴツゴツとしたブーツ。そしてショートヘアにモスグリーンのサンバイザーを付けていた。顔は影になっていてほとんど見えなかったから、ライブに来る日を間違えたのかもしれないと本気で思ったほどだった。ギターを抱える前に、おもむろにジャケットを脱ぎ、首にスカーフを巻きつける。「ポートランド、本当に寒いね、、、」とボソリとつぶやく。その声は長年聴き続けてきたTara Jane O’Neilの声そのものだった。勝手にロングヘアで綺麗なブロンドのヒッピー風な美女を想像していた(ジュディ・シルみたいな)けれど、容姿はそのイメージとはかけ離れていて、今やっとここで声と姿形が一致したことがなんだか面白かった。観客にタンバリンを叩かせたり、オープニングアクトで演奏していた二人を呼びつけて演奏させてみたり、「見て!ギター弾き終わった後の手がRun The Jewelsみたいになっちゃった!」とか、可愛いのだか狂ってるのだかわからなかった。なんとなく、格好がいいこととか、深みのある言葉を期待していたような気がするのだけれど、彼女は終始無邪気で、とにかく繊細で美しい歌を響かせていた。大好きな「The Poisoned Mine」や「Dig In」といった昔の曲も演奏してくれたことが嬉しかった。残念ながら、メインアクトのCalifoneを最後まで見ることができなかったのだけれど、彼女の歌声を一人の帰り道でまた聞きながら歩くのが気持ちよくて、それはそれで良かったように思う。

hiroshi ujiieday, music