ESSAYS IN IDLENESS

 

 

ALASKA PART4 -ALASKA RAILWAY-

この5日間お世話になったニャン太郎に別れをつげ、早朝にアラスカレールウェイの駅へ向かう。朝七時だけれどまだ日が出ていない。今までは白く輝くように見えていた山が青白い空の光をうけて、冷たい青色に染まっている。それは西洋の絵画や昔の写真でみたような美しさだった。このアンカレッジという街から見える景色はいくつもの側面を持っているけれど、そのどれもが美しくて、きっと冬以外の季節でも死ぬほどきれいなんだろうなと思った。

車で送ってくれた脇谷さんに最後のお礼と、無事にロッジに着いたら連絡する旨をつたえ、アラスカレールウェイに乗り込む。どうやら僕は間違った席に座っていたらしい。ただ、この季節はオフシーズンのために基本的に機内はガラガラ。状況を駅員さんに説明すると別の車両の一番いい席を使っていいと言ってくれた。アラスカレールウェイはアンカレッジから南はキーナイ半島、北はフェアバンクスまでを結ぶアラスカ唯一の鉄道だ。僕はアンカレッジからフェアバンクスまでの600マイル程度の距離を12時間かけて移動していく。列車は所々でスピードを落とし、時には止まり、風景の解説をしながら進んでいく。さながら巨大なサファリパークにいるようだった。時たま、線路沿いの駅に貨物を下ろすために数分停車する。近隣の家から人が犬とソリを持って出て来る。犬はその荷物の乗ったソリを軽快に引いて家に戻っていく。飼い主さんと遊んではしゃぎたい犬が一匹だけいて、荷物を放棄して走り去り、それを追いかける飼い主さんと一緒に何処かに消えていってしまった。

窓から見える景色は一言で言えば12時間全てが絶景。列車が撒き上げる雪の粒が陽の光にキラキラと、まるでガラスが舞っているかのように反射している、その奥には凍った河川や樹氷、更にその奥には白く神々しく輝く山々や、どこまでも続く真っ白い雪原。たまにムースやカリブーが餌を食べているところを通り過ぎたりする。たまに集落や村を通り過ぎるけれどいったいどうやって暮らしているのかわからない。デナリ国立公園を通り抜けて、眼前にデナリを眺める。これまで見た中では一番近い距離で見える。デナリの手前全てが真っ白い雪原だったため、遠近感が全くつかめずデナリがどれくらい大きいのか比べようもなかった。この列車のすごいところは、窓を開けて顔を出していいというところだ。僕も列車に乗っている他の観光客に紛れて何度も展望デッキへいって写真を撮った。帽子や携帯電話が吹き飛ばされそうになりながら、冷たく澄んだ空気を思いっきり吸い込むと、あっという間に目が覚める。文字通り眼の覚めるような景色も、もちろん一緒に見ることができる。

持ってきた本を読んでいるうちにどうやら寝てしまっていたらしい。こつこつと読んでいた深夜特急もいつのまにか中国から東南アジアへと移っている。この本が読み終わるころ、僕の旅も終わるような気がしていて、読み進めるのが勿体無い気がしていた。フェアバンクスに着く頃には日も暮れ始めていて、時刻も8時を回っていた。実は僕はこの時が一番緊張していた。なぜならフェアバンクスから今日泊まるチャタニカロッジまでは車で行くより方法がないからだ。タクシーで空港まで向かう。タクシーのおじさんに「絶対に50キロ以上出さないこと」「ハンドルを急に切ったり、アクセルを強く踏まないこと」「今日のオーロラはかなり強くなること」「強いオーロラを見るという体験は人生を変えてしまうくらいの印象をあたえること」という4点を念入りに説明された。そしてレンタカーの受付で鍵を受け取り(何かの間違いで借りれなかったりしないかとも少し思っていた)、自分の車にエンジンを入れる。左ハンドルの座席に乗り込み、ワイパーとウィンカーの位置、ライトの点灯のしかた確認する。緊張をほぐすために音楽をかけ、タバコを吸った。とりあえず3本くらい立て続けに吸ったと思う。吸いながら何度もロッジまでの道順を確認しているうちに緊張が高まってしまって、結局あまりリラックスできなかった。

「ああ、本当に全部逆だぞ、、、逆走したら死ぬな、、、」

と思いながらアクセルを入れ、バックして車を出すといきなりタイヤが空転して車がスリップした。そういえばノーマルタイヤなんだよなということを念頭に入れつつ、ガッチガチに緊張しながら夜のハイウェイに乗り出していった。

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