ESSAYS IN IDLENESS

 

 

Condor Ave. / Elliott Smith

気持ちよく晴れた土曜の昼、リンカーン高校へと向かう。ポートランドには彼が14歳以降、ポートランドの実父のもとで過ごしたいくつかのスポットが点在している。たとえば、彼がローマンキャンドルを録音したスタジオや、住んでいた家、よく通っていたレコード屋、この高校はそのうちのひとつだ。校内には彼の功績を讃えたプレートもあるそう。

“I'm never going to know you now, but I'm going to love you anyhow."

プレートにはその言葉とともに、生まれた年と卒業年、そして享年が記されている。学校は土曜ということもあって生徒の姿は見えない。真向かいにある競技場ではラクロスの試合とそれをスタンドから観戦している父兄が。校舎の入口前では気だるそうにスケートボードの練習をする若者が2-3人と、BMXを練習しているおじさんたちが数名いた。平たく水平に伸びる校舎はこじんまりとしていて静かな空気が流れている。校庭には枯れかけた花壇と、手入れされずに咲いている桜や椿が太陽の光を目いっぱいに浴びて綺麗に輝いている一方、その下を見ると枯れ落ちた花びらが芝生の上に儚く散っている。この学校の周りを3周くらい回ったけれど彼の形跡を見つけることはできなかった。しかし、この散った花びらや何もない平穏で静かな空気こそが彼がいたであろう証拠のような気がしてならない。そんなわけで、何もないこの学校の周りを「Roman Candle」を聞きながら歩いているだけでとても心が落ち着いた。彼の音楽を聴いたのはすごく久しぶりだったこともあって、日陰でゆっくりしているうちに夕方になってしまった。

帰りしな住宅街を歩く。2階建ての家の開いた窓からバンドの練習の音が漏れている。周りに人は誰もいなくて、その場で暫く立ち止まってその音漏れを聴いていた。春になって緑が深くなった街路樹や庭の植物と、白い家屋の壁面に黄金色の西日が反射して綺麗なコントラストを描いている。彼の音楽はこういう景色から生まれたのだろうかと思いを馳せる。もしこの窓から彼の声とギターが聞こえてきたならどれほど美しいことだろう。

hiroshi ujiieday