EMO NITE @HOLOCENE
ついにアメリカのクラブというものに入ることができた。
「EMO NITE」と銘打ったこのライブを見つけたとき、僕はとてもうれしくなった。
イベントの概要には「90's~mid2000のエモ」「クローゼットの奥に仕舞ってあるThe Get Up KidsのTシャツをきて集合だ!」
みたいなことが書いてあって、間違いなく自分の好きな音楽しか流れない最高のパーティなんだろうと直感した。
一緒に行ける人はいなくて、だいぶ心細かったけれど会場で誰かしらと仲良くなれるだろうと、音楽が僕を聖なる領域へと導いてくれることを信じて疑わなかった。
イベントが近づくにつれテンションが上がる。なぜならこの日のために作ったEMOプレイリストを一日中聴いていたからだ。
そして、会場に向かって歩みをすすめるうちに違和感を感じ始めた。すれ違う人たちが黒い革ジャケット、黒いスキニー、黒いTシャツ、マーチンのブーツ。極めつけはSkrillexのようなヘアスタイルにピアス。
これは僕の好きなエモではないのでは?という思いが強くなる。そして会場の前にたむろする人たちは間違いなくエモというよりザ・イーモウ!という感じの出で立ちだった。
会場からはガンガンに音漏れをしていたのだけれど、それだけでは曲が判別できなかった。
今思えばここで何事もなかったかのように素通りをすればよかったのかもしれない。
相当尻込みしたけれど、自分の心に無駄に鞭を打ってエントランスに入る。
会場は既に超満員で、爆音でスクリーモの何かしらの曲が流れていた。
そして会場の中のほぼ全員が全力でシンガロングをしていた。DJは曲をかけて踊っているだけだった。
あまりの光景に入った瞬間一人で爆笑してしまったわけだけれど、いつか僕の好きなエモがかかるかもしれないという淡い期待を抱いて辛抱強く待った。
会場を見渡すと、普段の生活では合わないようなタンクトップを来たグラマーなティーンネイジャーや、綺麗なブロンドのお姉さんがわんさかと溢れている。
僕にパートナーがいないことを除けば、ほぼ完璧にこれまで夢見たアメリカのクラブだなと思えた。
曲が変わる度に全員が全力でシンガロングを始めるこのイベントは、間違いなく自分の人生で最高の熱量を持っていたと思う。
ただその取り除けない一因が明らかに大きすぎて、孤独に苛まれるとともに、自分の好きな曲が全くかかる気配がないという事実が僕の足を自然と出口に向かわせていた。
まだ会場に入って1時間も経っていなかったはずだ。
そして会場から出る直前、Postal ServiceのSuch a Great Heightが流れた。
この瞬間僕は「神よ」と天に向かって感謝をした。捨てる神あれば拾う神ありとはよく言ったものだ。
そして、会場を見渡すとさっきまで大きな声でシンガロングをしていた人たちがすっと静かになるのを僕は見逃さなかった。
その瞬間、僕は一瞬止めた歩みを、再び出口に向けて進めた。
会場の外で一服し、窓から漏れる曲を聞きながら、これくらいの距離感でこの人達とは接していたいと思い始めていた。