ESSAYS IN IDLENESS

 

 

12/29 SANTA BARBARA

昨日乗り逃したアムトラックに乗るため、朝一番にユニオンステーションへ向かう。先日の混雑は嘘だったかのように、社内はガラガラ。海の見える席を贅沢に陣取り、アムトラックはカリフォルニア有数のリゾート地サンタバーバラへ向かって走り出した。

天気は快晴で、美しい海がよく見える。アムトラックはそもそも風景を楽しめるようにゆっくり走る。
車内のカフェでコーヒーとパンを買って一息つく。ろくに写らないカメラを念のため構え電車の窓からの景色をファインダー越しに覗いた。走る車窓からは海のほかに、郊外の景色がよく目につく。例えば、倉庫や工場、水路。そしてそれらの壁に無数に描かれたグラフィティアート。むしろ海や山よりも、こういう郊外の雰囲気こそがアメリカという国を象徴しているように思えてならない。このカメラでいくらとってもピンぼけになるのはわかっているけれど、シャッターを切るのに夢中だった。

いくつかの駅に停まったあと、僕の隣に気品のあるおばさんが乗り込んできた。現在カリフォルニアのフレズノという街に住むという、シリア人のおばさんは息子たちと長男の嫁の愚痴をたっぷり60分、僕にまくし立てて気持ちよさそうにロサンゼルスで降りていった。一瞬アメリカの政治の話になったけれど、この国の政治についてまだ十分に語る言葉を持たない自分は、ひたすら聞き役に徹する必要があった。

車掌さんが6歳くらいの男の子に「身分証提示をお願いします」と冗談をふっかけている。その子の父親も一緒になってからかって、男の子が恥ずかしくなってトイレに隠れにいくのを見て和んだりしていた。自分の思い描くアメリカらしさがそこかしこに転がっていて、この旅をより素敵なものにしてくれている。

サンタバーバラへと到着する。上下登山服で、背中には特大バックパック。こんな典型的な旅人の出で立ちでこの街に降り立つべきではなかったと後悔する。綺麗に整備された美しい街並みは、僕のような旅人が馴染む光景ではなく、地元のおしゃれで気品のある人達のためのものだった。
カフェに入ろうにも、アイス屋やアンティーク屋に入ろうにも、どうにも気が進まない。ひたすら歩いて、どこか居心地のよさそうな場所を探したけれど、気がつけば街から遠く離れたどこかの公園でゆっくりタバコを吸っていた。

タバコを吸いながら気づいたことがあるとすれば、僕はサンタバーバラに対してこれまでなんの接点も持っていない。読んだ本、映画、写真、友達伝いに話をきいたこともなかった。ただちらりとみたガイドブックに載っていただけの街だった。おそらく、この街を受け入れられない、楽しめないのは自分となんのつながりもない、あこがれの対象じゃない土地だからじゃないかと思う。これほど居場所がない場所もそうないだろう。確かに町並みは美しいし海もある、だけれどもどことなく冷たい印象が心のなかに残っている。

そんなことをしているうちに夜になってしまっていた。今日の夜はアムトラックで旅の最終地点、サンフランシスコへ向かう。ユニオンステーションで辛抱強く電車を待っていると、今日の交通手段はバスであることに気づき「まじかよ!!」と心のなかで絶叫する。気温も下がってきて、雨も降ってきた。ユニオンステーションは21時に締まってしまい締め出される。凍えるほど寒い中、2時間もバスを待った。

hiroshi ujiieday, journey