REALLY GOOD STUFF
アンティークモールで買ったレンズのおかげで、カメラを持って出歩ける様になった。
カメラを持って出かけると何がいいかって、人に話しかけられる回数が増えることだ。
「良い写真撮れてる?!」
「私のこと撮らない?」(撮りたいけど、断ってしまう)
「いいレンズだね!」
だから、外を歩いてるだけで楽しい気持ちになれる。
いい写真は相変わらず撮れていないのだけれど、機材になれるまで気長に待とう。
グーグルマップでも特に表示がされていないような、人通りの少ない場所をなんとなく歩いてみる。ガイドブックにも載っていないような小さな店がちらほらと見えてくる。そういう場所に店を構えている人たちは大体優しくて、気さくに声をかけてくれる。カフェでも、レコード屋でも、カメラ屋でもそうだ。そして、得てしてこういう場所で素晴らしい店に出会うものだ。「Really Good Stuff」、こんなに素晴らしいアンティークショップを僕は見たことがない。
入り口の脇の、小さな道具類が密集した小さなブースに、無愛想なおじいさんがいろいろなジャンク品に埋もれながら、座って時計の修理をしている。少し大きな声で「こんにちは」と言うと店の奥の方からウォルフガング・ティルマンスに似たおじさんが出てきた。
「やあ、きてくれてありがとう。なにかあったら声かけてね」
「ありがとうございます。それにしても素晴らしい店構えですね」
「はは、ありがとう。ごゆっくり!」
店の中には無愛想なおじさん、ティルマンス似の優しいおじさん、そして可愛らしいトミーという名の白猫がいる。
「ほらティミー、お客さんに挨拶だ」
「.....」
「挨拶だよ〜、コンニチハ」
「(おじさん)みゃお〜〜〜」
店内の古いスピーカーからはラジオが流れていて、綺麗なクラシックのピアノ曲が静かに流れていた。中には衣類や骨董品や家具だけではなくて様々な試験機やゲームセンターのマシン、銃や音響機器もある。そして大半は用途のよくわからないものだったりするわけなんだけれど、とりわけ僕が強い興味を惹かれたのは古いレコードやテープ、8mm、16mmフィルム。そして昔の写真や音声データだ。ものすごい数の誰かの記憶が「Dad」「Sisters」「Poor Folks」「Vacation」などのラベルを付けられて陳列されている。このラベルの付け方が最高に「わかっている」と思いながら、一つ一つの棚を見ていく。中には折れ曲がったり破れたり、他の写真とくっついたりしてボロボロになった写真が山のように入っている。更に写真を入れて送ったであろう古い封筒や、誰かのスクラップブック。卒業アルバムのようなものもあった。
家族写真や旅行写真の背景に偶然紛れ込んだ奇跡的な瞬間や、日常にあふれる美しい瞬間。その写真たちを一枚一枚手に取り、丁寧に形を整えながらだいぶ長い時間見ていた。一つの棚が終わったら次の棚へ。いつか、ここに売られている8mmや16mmのフィルムもプロジェクターを通して見れたらと思う。
「8×10は一枚$2、小さいのは¢50。いっぱい買ってくれたらディスカウントするからね!」
結局、写真を18枚ほど集めてレジに持っていくと、本当は$9なのに$5になった。
「ありあとうございます。また必ず来ます」
「もちろん、いくでも来てよ!なるべくすぐに!」
無愛想なおじさんが僕が店を出る瞬間に「アリガートウ」と小さな声でつぶやいた。
猫のトミーはレジ前のガラスケースの前で気持ちよさそうに寝ていた。