PATERSON
相変わらず信じられないくらい寒い日が続いている。
旅行中に使えないことがわかったレンズの代わりを探すため、家の近くの42nd Steert Stationという巨大なアンティークモールにいく。今ではもう普通に思えてきているけれど、家の近くにこういう場所があるのは本当に幸せなことだと思う。
モールには骨董品の食器やナイフ、絶対にもう使えないであろうスキー板やテニスラケット。釣り竿。誰が描いたのかわからない絵や、テストの答案用紙など、ここには書ききれないくらいよくわからないものが売っている。
レンズを探しに来たのに、そういったものを一つ一つ手にとってしまうので、広い店内を見て回るうちにいつの間にか時間が過ぎている。
ようやくいくつか使えそうなレンズを見つけ、入念に試写をさせてもらいながら格安でペンタックスのカメラとレンズを買う。
「これ$40とは思えないくらい綺麗だな」
と店員さんも自画自賛していたけれど、確かに僕もそう思う。フィルムを買ったらこのカメラも使ってみよう。なんだか久々に買い物ができてうれしくなってしまい、ダウンタウンのスリフトショップへ向かう。
アメリカに来たことのある人はわかると思うのだけれど、こちらには「古着屋」と「スリフトショップ」という二種類のセカンドハンズショップがある。簡単に説明しておくと古着屋やアンティークはバイヤーが買い付けたものを販売するのに対し、スリフトショップの商品は全て寄付で成り立っている。スリフトの商品は女性用下着から衣類、家具、家電までほぼ網羅的にカバーされているので、だいたい生活に必要なものスリフトにくれば揃ってしまう。衣類で言えば全ての商品がだいたい$10以下、大半は$1~5前後で買えてしまう。しかしながら状態や商品のおしゃれさは玉石混交、まさにゴミの山から宝を漁るような感覚に近い。
ポートランドにはかなりの数のスリフトがあり、若者からおじいちゃんまでいろいろな人が集まる。店によって特色もことなり、衣類が強いスリフトもあれば、家具や家電が強いスリフトもある。これだけの安さで手に入るので商品を探す自分も気合が入る。自分の脳内にアドレナリンが駆け巡るのを感じる。今回行ったスリフトでは、ナイキのエアフォース1のレザー仕様のものが$10、パーカー2着を$10で買うことができた。
※日本で買ったら普通に10000円はすると思う
近くのTaco Bellで$1のタコスを食べながら、こんなに安くて楽しくて良いのだろうかと、いつか日本に戻って何も買えなくなりそうだと思った。その後、友人のカルロスとアルバと一緒にCinema21へジム・ジャームッシュの新作「PATERSON」を見に行く。粋な看板の下の小さな入場口をくぐると、外観からは想像できないくらい広いホールで驚く。せっかくなのでど真ん中に陣取り、ポップコーンをつまみながら映画を見る。
話のあらすじとしてはGirlsのアダム演じる主人公のペーターソンは詩人で、バスの運転手をしている。
バスの車内の会話や車窓からの風景、奥さんとの生活、日常に起こる些細な出来事を秘密のノートに詩にしてしたためている。この恥ずかしくなるような設定と、主人公の周りの変わった人達との会話や間のずれ方。この2つのバランスが絶妙に取れていて、ジム・ジャームッシュらしいセンスをただひたすらに感じる。
自分は詩人ではないけれど、こうして自分の日常を文章にしていることもあって、主人公に少しだけ共感できたのが嬉しかった。感想が貧弱なのだけれど、ジム・ジャームッシュの映画を見た後はいつもこうなってしまう。掴みどころがなくてするすると抜けていってしまうのに、なにか薄っすらと映像や言葉、空気感が頭の中に残っているような気がする。見終わってあとただなんとなく「よかった」「最高だった」としか言えなくなってしまうこの感じ。この表層を極めているということが、ある種アメリカ的であり、本質的なものなのではないかというとそれっぽくなるだろうか?
映画館を後にして、近くのピザ屋に入る。ピザ屋の壁には「PIZZA MAKES WORLD TOGETHER」と描いたネオンが飾られている。確かにそれは間違いない。激安ピザとコーラを飲みながら、他愛もない話をしていると目の前にカラオケの索引が配られる。ピザ屋だと思って入ったけれど、どうやらカラオケパブだったらしい。
「誰が歌うんだよ(笑)」と話していると、さっそく聞いたことのないナンバーが流れる。アヴリルラヴィーンのようなネルシャツと髪色をした店員がまず歌い始めた。その人の歌を皮切りにして、次々と会場にチープなBGMが流れていく。どうやらカラオケのBGMのチープさは各国共通らしい。
アメリカ人は知らない人の前で歌うのを全く苦にしないらしい。おばさん、おじさん、ティーンネイジャー。次々とマイクの前に進んでいく。人によっては待ちきれず、マイクのそばで今か今かと出番を待っている。せっかくなのでカラオケの索引を眺めていると、フランク・シナトラやエルビス・プレスリーは100曲くらい登録されていた。彼らは今でもアメリカの魂なのだろうか?
音が大きすぎて話もできないので、トイレにいくと入り口の前で男の人が何やら深刻な表情で相談をしている。
「俺がこのパートやるからさ、お前2番歌えよ」
「おっけー、俺ここ歌っていい?」
「次に歌う曲の打ち合わせかよ!」と拍子抜けしてしまったけれど、国が変わってもすることが変わらなくてなんだか安心した。
※ちなみにこの人達が歌った曲はRUN-DMC の「It's Tricky」だった。
「俺が緑のパート歌うっていったじゃん」
「僕が青のパートだったの?ごめん、、、」
歌い終わった後の細かな調整もしっかりしていて笑ってしまう。何曲くらいきいただろうか?10曲か15曲くらいがっつり素人の歌を聞き続けた。その時の心境としては「ここポートランドなんだし、エリオット・スミスとかスリーター・キニーとか歌ってくれよ!」と思ったけれど、その願いは叶わなかった。その後、ドヘタクソな(でも最高な)Weezerの「Beverly Hills」を聞いたところでカラオケパブを後にした。