ESSAYS IN IDLENESS

 

 

12/31 NEW YEAR DAY EVE

日本では一足先に年を越したみたいだけれど、アメリカは今日が大晦日になる。
そういえば日本の人たちに向けて送った手紙は届いているのだろうか?大晦日や正月というと、元朝参りや年越しそばが懐かしくてほんのすこしだけ日本が恋しくなる。

近くのマーケットで買ったまずいドーナツをコーラで流し込み、朝ごはんの代わりにしてモーテルを出る。
今日の目的はデヤング美術館。作品だけでなく建築としても非常に有名な美術館だ。
デヤング美術館は大きな庭園を挟んで、博物館にちょうど向かい合う形で建っている。そのせいもあってか、辺り一帯が非常におだやかなで気品のある雰囲気だ。外観は鉄板とガラスを組み合わせたポストモダンな印象。左右非対称で、建物西側に高くそびえ立つ展望台がある。中はガラスから入る自然光が気持ちよく、すごく広々とした印象だ。実際平面的にとても広い。

さっそく目当てのフランク・ステラの個展へ向かう。彼の作品は日本でも何度か(DIC川村記念美術館にかなりの数が所蔵されている)見たことがあるし、この旅でも何度も見た。今回の個展をでは彼の初期の作品から晩年の作品に至るまでを一度にみることができたので彼に対する理解が少しだけ深まった。本音を言うと、日本にいた頃は晩年の作品ばかりに目がいってしまい突拍子もない作品で評価される所以がわからないアーティストの代表だった。しかしながら、初期作品の抽象的でミニマルな絵画が、徐々に立体的に、そして素材を組み合わせて彫刻になっていくのを見ると、彼が絵画の地平をいかにして切り開いていったかがわかる。それはピカソやブラックのキュビズム。マティスのフォービスムともつながりがあるように感じられた。ぶっちゃけた話、映像で見る彼自身がナード感あふれるインテリっていう感じでとても好感が持てたのが一番大きいと思う。

ああいう記録映像ではだいたいアーティストがアトリエで制作している映像が断片的に流れるのだけれど、それが好きだ。例えばジャクソン・ポロックの晩年の映像ではタバコを加えながら渋い顔をしてキャンバスに絵の具を撒き散らしていたりだとか。映画で言えば、ロベール・ブレッソンの白夜の主人公の部屋が広々としたアトリエに住んでいて、その部屋の壁に乱雑に大きなキャンバスがかけられていたりだとか。そういう映像では大抵の場合気持ちよく光が部屋の中にこもっていて、真ん中に一人がけソファやベッドががぽつんとおいてあり、それがなんともたまらなく芸術的で退廃的な雰囲気を醸し出しているものだ。

フランク・ステラを見た後に、ダニー・リオンの写真展を見て、常設を見て回り、庭に出て彫刻作品を一通り見て回るとあっという間に3時間。そのまま近くのリッチモンド地区に行き、安っぽい店で(その名もゴールデンドーナツ)ドーナツとコーヒーを食べたけどすごく美味しかった。
近くのコンビニの前でタバコを吸いながら、となりにいた怖そうな犬を連れた怖そうなおじさんに声をかける。

「ここでタバコ吸っていいですか?」
「もちろん、ここに腰掛けてよ」
「今日、港で花火が上がるって聞いてるんですけど、何時か知ってますか?」
「ああ、フィッシャーマンズワーフだろ?21時からだ。だいたい、21時からだな。」

そんなことをしている間に、おじさんの怖そうなドーベルマンが笑顔で近づいてくる。彼の頭や顎を撫でるとゴワゴワしてたわしを触っているみたいだったけれど、とてもかわいかった。

「いろいろ教えていただいてありがとうございました」
「どういたしまして、ハッピーニューイヤー!」
「ハッピーニューイヤー!」

このアメリカ流の新年のあいさつが嬉しくて、それ以降話す人にはだいたい「ハッピーニューイヤー!」と言っていた気がする。その後、フィッシャーマンズワーフに向かい、どのガイドブックでも名物だというクラムチャウダーを食べる。巨大なパンをくり抜いてできた穴に豪快にクラムチャウダーが流し込んである。$10でお腹はいっぱい。外はとても寒かったので、こういうものが気軽に食べられるのはとてもうれしい。

フィッシャーマンズワーフでは大晦日だと言うのにほとんどの店が開いている。お土産屋ではパチモンみたいなステッカーやパーカーが大量に叩き売りされている。花火の時間まであたりをブラブラとしていると、遠くからバンドの演奏の音が聞こえる。生のドラムの音だ。曲はEarth, Wind & Fireの「September」(1月になろうというのに何で??)
急いで駆け寄ると、人だかりのなかでストリートパフォーマーのおじさんがプレイしていた。

「バケツにチップを忘れないでくれよな!」
「俺のFacebookページは。。。」
「このテーブルの上に俺の名刺があるから、、、」

というビジネスライクなMCを30回くらいはさみつつ、ライブは進行して行く。ビリージーン、スタンド・バイ・ミー、ゲット・ラッキーなど誰でも踊れるナンバーを次々にプレイしていく。ホームレスのおじさん、ちょっとおかしなおばさん、赤ちゃん、若者、明らかに悪そうな人、老夫婦、太っちょの女の子、カップル、冴えない人たち、旅行客。いろいろな人達がこのおじさんの周りで賑やかに踊ったり歌ったりしていた。警察官はコーヒーを飲みながら笑顔でその様子を見守っていた。
突如ダンスバトルが始まったり、どう見ても普通そうなおばさんがノリノリでダンスをしてたり、MCに合わせて全員でシンガロングが始まる瞬間は幸せだった。アメリカの人たちには、こうして世代を超えて盛り上がれる曲があって羨ましい。しかもそれらが本当にいい曲だからなおさら。新年を迎えようという夜にこういう場面に立ち会うことができて心から良かったと思う。

こんな寒い夜に手足を震わせながら3時間以上もプレイしてくれたお礼に、おじさんのバケツにありったけのキャッシュをぶち込み握手をして会場を後にする。そういえば時間は9時を回っていたけれど、花火は一向に上がった気配はない。近くの人に確認すると、「花火はだいたい24時を回った頃にあがるよ」とのこと。おじさん、嘘つかないでよ。

やることもないので、そのままフィッシャーマンズワーフで24時まで時間を潰す。もし、これが日本だったら人が入れなくなるくらいまで港があふれるんだろうけれど、意外と人はまばらだった。そしてニューイヤーのカウントダウンが始まる。そして新年を迎える。周りからハッピーニューイヤーの声が上がる。そして一斉に人が帰っていく。

「え、花火みなくていいの??」と意外なほどあっさりした新年の迎え方に面食らいつつ、辛抱強く待つ。24時10分を回っても、一向に花火が上がる気配がない。諦めてもう寒いし帰ろうと思って歩き出すと、別な方向から花火の炸裂する音がする。慌てて駆け寄ると、遠くに花火がちらほらと上がっているのが見える。「小さっ!!」と思わず叫んでしまう。そして、僕が花火を見るために脚を止めてから約10秒くらいで花火は終わった。花火の上がる方向を間違えていた。

その後、フィッシャーマンズワーフから郊外のモーテルまで帰ろうとするも、バスも電車も大遅延。そのうちに終電も終バスもなくなり、どうにかこうにかしてモーテルにたどり着いたときいは既に夜中の4時近く。いろいろと大変だったけれど、長い幸せな一日だった。そういえば、今日は電車もバスも無料だった。