1/1 HIPPIE HILL
モーテルの壁が綺麗だった
新年の朝は11時に起きた。昨日の疲れが残っていて全く新年という気持ちにならない。せっかくサンフランシスコに来たので、ヒッピーカルチャーのある場所を回りたくてハイトアシュベリーとヒッピーヒルに行くことにした。
ヒッピーヒルでは新年早々ヒッピーの人たちが昼寝をしたり、歌ったり踊ったりしていた。それを見る人達が芝生の斜面に横になって煙を吐き出しながら静かに眺めていた。ヒッピーの人たちが奏でる原始的なリズムが公園に響く。音楽に引き寄せられて人が少しずつ増えていく。天気は良かったけれど、ただボーっとしてしていると寒くなる。日向で身体を揺すりながらタバコを吸っていると黒人の男性が強烈に訛った英語で話しかけてきた。
「よう兄弟、タバコか草いらない?」
「今タバコ吸ってるから間に合ってるよ、ありがとう。正直なところ草吸ったことないよ」
「嘘だろ勘弁してくれよ〜、カモーン!」
と言いながら爆笑されつつ、そこからいろいろな話をした。
自称マイケルというこの男性はジャマイカ人で、こちらにきてから随分経つらしい。
いくら売っても設けにならん、食材もまともに買えないし、サンフランシスコは家賃が高すぎると切実な悩みを抱えていた。
「いつか東京にも行ってみたいけど、お金がないから行けないよ。」
「サンフランシスコのほうが遥かに物価高いよ。ドルが高いうちにおいでよ」
「どちらにしろ今は元手がないんだよ、なあ草いらない?」
「だから要らないって(笑)」
「カモ〜ン!」
そんなやり取りをしている間もヒッピーの人たちの音楽はずっとリズムを刻み続けていた。マイケルと別れ、ハイトアシュベリーを歩いて回る。新年ということもあり殆どの店が閉まっていて、人もまばらだった。手を繋いで歩く男の人達や、カラフルな髪のパンクス、巨大なレコードショップ。タイダイ色に染まったお土産屋、グラフィティアートや奇抜な店の外装をみているだけでもとても楽しかった。道行く人は草の匂いが漂っていたり、交差点には怪しげなラスタマンが大きな帽子をかぶって立っている。そうした街の雰囲気をなんとなく感じ取って、この街を後にした。
帰り際、後ろから「Safe Trip!」と叫ぶ声がして振り向くと自転車に乗ったマイケルだった。
「ありがとう、またいつか東京で!」と返すと、そのまま後ろ手に手を振ってサンフランシスコの坂を勢い良く下っていった。