ESSAYS IN IDLENESS

 

 

KODA

すごく昔、奥多摩の方にいったときの写真

すごく昔、奥多摩の方にいったときの写真

うちの近くには「幸田」という名前の定食屋がある。これまで数多くの街の定食屋や中華に行ってきたけれど、間違いなく一番の店。決して広くない店内にはカウンター席が5席ほど。テーブル席は5つ、合計10数名が一度に入れば満員になる。平日のお昼から21時までしかやっていないから、早く帰れた日には必ずここで晩御飯を食べると決めている。(去年は10回も行けていないかもしれない)

お店に入ると、まず背中の曲がった齢70にも迫ろうかというおばあちゃんの元気な「いらっしゃいませぇ~!」の声。続いて、カウンターの中から力強い「いらっしゃいませ!」の声が聞こえてくる。厨房を担当するのは優しそうな親父さんと、若いおじさんだ。二人はいつも白くパリッとした白衣を着て、手際よく調理をする。出来上がった料理はおばあちゃんが運んできてくれる。僕がよく頼むのは基本的にこの4つ。

・日替わり(豚肉とキノコの炒めもの)
・サバ定食
・もつ煮定食
・タンメン

特に定食は、古い定食屋さんによくあるステンレスの楕円形の皿におかずがもられてくるのが嬉しい。必ずキャベツの千切りとマカロニポテトが付いている。しっかりと炊きあがったご飯に、たくさん豆腐が入った手作りの味噌汁。何種類ものお新香。たまにその日に作った煮物なんかもサービスで付けてくれる。もちろん、どの料理を頼んでも間違いなく美味しい。何より、栄養価や見た目、量、値段のバランスが絶妙で、そうしたすべてがこの店の優しさを表現しているように思えてならない。この店は喫煙可能だけれど、そこに一言「子供がいるときはご遠慮ください」と書いている。そしてこの店で喫煙している客を見かけることは殆ど無い。タクシーの運転手やすこし柄の悪そうなおじさんたちもよく来るのだけれど、おそれを知らないおばあちゃんが話しかけると毒気を抜かれてしまったように朗らかに会話をし始めるのが面白い。何度も通ううちにこのおばあちゃんとの会話を楽しみに幸田に訪れる人が少なくないということもわかってきた。この前なんて、僕とそんなに年の変わらない兄ちゃんがおばあちゃんに恋愛相談をしているのを目撃した。

店を出るときにも、必ずスタッフの全員から明るい声で「ありがとうございました!」という声が帰ってくる。そして背中越しに「また来てくださいねぇ〜」というおばあちゃんの一声で心がより一層あたたまる。

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そういえば最近、エリック・ホッファーの『波止場日記』を読んだ。荷揚げをしながらあれだけの思索を練れる人などそういまい。世の中を見つめる解像度が異様に高い人間の所業を垣間見る。続けて、別の本も注文したので読んでみたいと思う。

また、岸本佐知子訳、ジャネット・ウィンターソン『灯台守の話』を読んだ。近頃読んだ本の中でもかなり面白い本だった。人生の指針となりうるパンチラインが散りばめられた大人向けの絵本というか。そんな感じだった。要するに世界は愛。

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