SEE EVERYTHING ONCE -DAY1-
アメリカ横断の旅。まず今回の旅では西海岸のオレゴン州ポートランドから東海岸のメイン州ポートランドを目指す。30日間のロードトリップの記録。
ついに旅立ちの日が来た。この旅を完遂できるかどうかという不安と、この旅が自分にとってどういうものになるのかという期待が半分ずつ入り交じったような心持ちだ。荷物をレンタカーのジープに積み込んでエンジンをかける。そうするともう出発するしかないという気持ちに切り替わる。異国での旅というのは何度やっても不安がつきまとう。何かあった時に自分自身でどうにもできないことがあることだったり、そもそも知らないことや馴れないことが多すぎる。そうした不安を自分の心の中に押し込めて、アクセルを踏み込む。まずは東へと進んで第一の目的地のオレゴン、ペンドルトンへと向かった。ヒストリックハイウェイを通って、コロンビア川を左手に眺めながら緊張感の漂うドライブ。既にポートランド市内で人を轢きそうになったこともあり、ハンドルを握る手に汗をかいているのが自分でわかる。T-mobileの電波はオレゴンの東側に行くと殆ど入らないこともあり、google mapがうまく作動しなくなることも不安だった。
アメリカのハイウェイの運転はどこで降りるかとどこで乗るかがキーポイントになる。無駄にガスを消費してしまうのも問題だ。目の前に山積する不安を押し殺すようにBGMを大きくして、深呼吸を繰り返しながら進んでいく。ペンドルトンの街はポートランドから2時間程度。ペンドルトンというブランドは誰しもが知っているだろうが、あのペンドルトンを生産している街である。街はレンガ造りの建物が多く、どこか懐かしさを感じる昔ながらの光景の残った素敵な街だった。ひとまずウォルマートによってWi-Fiを使い、次の目的地をセットする。ゆっくり街の観光でもと思ったけれど、なぜだかわからないけれど次の目的地に進まなければという気持ちになってしまい、ガスを入れながら吸っている煙草も途中で切り上げる。この焦燥感はロードトリップ特有のものなのだろうか?別にこの日の最終目的地も決めていないのに、なぜだか心ばかりが焦ってくる。夕日に染まってオレンジ色に輝くレンガ造りのダウンタウンをゆっくりと通り過ぎ、次の街へ向かう。既にメインのハイウェイからは降りて、地図にか細く表示されている田舎道に入っていく。オレゴンとアイダホ、ワシントンの境界付近にあるワラワラという変わった名前の名前を通り過ぎ、ディクシーという名前の街へとたどり着く。ここまで来ると街の規模は相当小さくなり、街にはグロサリーストアと教会が一つ、というスモールタウン特有の佇まいになってくる。廃れてペンキが剥がれた木造の家はアメリカらしさを感じられるし、その家の前に放置された壊れたフォードのトラックや芝刈り機、キャンピングトレーラーが郷愁感を煽り立てる。別にアメリカが故郷というわけでもなんでもないのに、郷愁感を感じたり、この風景に出会えて嬉しいと思えるのはなぜなのだろうか?それは間違いなく自分が探していた風景の欠片に出会えているからだと思う。
車の整備をしている無愛想なおじさんに「誰か探してるのか?」と声をかけられたり、グロサリーストアのおばちゃんにどこから来たのかと尋ねられたりだとか、スモールタウンの人たちはもっと閉鎖的かと思ったけれどまったくそんなこともなかった。日が沈む前にもう少し大きな街へ行かないといけないので、もう既に暗くなり始めていたけれど更に東へと向かう。ついたのはワシントン州のデイトンという街だ。この街の夜は美しくて、メインの道路脇にあるシアターやこじんまりとした三角屋根のダイナーが夜のネオンに照らされてとても綺麗だった。できれば明るいうちに来て、このダイナーでコーヒーとホットドッグでも食べられたらと思う。この街の夜を楽しむのもほどほどに、寝床を探さなければ行けない。下手な場所を選んでしまうとせっかく寝ている最中に警察にド派手な職務質問を受けかねない(ドラマでよくあるやたら眩しいライトを車に向かって全面照射されるやつ。見つかってしまうと車を移動しなければ行けないので非常につらい)。そのため、寝床選びは頭を使って慎重に行わないといけない。最初は人の来なさそうな住宅街の隅っこに車を停めて身を潜めていたのだけれど、かなり頻繁に警察の車が脇を通り抜ける。これはもう少し夜遅くなると危ないかもと思い、病院の駐車場に車を停めた。ここであれば駐車場に車が泊まっていても不審ではないし、夜勤の人たちの車の移動が頻繁にあるので身を隠すのにちょうどいい。運良く街の外れに病院を見つけたので、堂々と駐車場のど真ん中のエリアに乗り付ける。そのまま後部座席に準備していた寝袋の中にすっぽりと包まって眼を閉じる。旅の一日目がこれで終わる、と安堵できるかと思いきや、心細さと不安感に苛まれまったく眠れない。もし警察に見つかったらめんどくさいな、とか、そういえば今日2回くらい事故を起こしかけたよな、とか駐車場に入ってくる車のライトやエンジン音がやたらと近くに感じられたりだとか。遠くで吠えている犬の遠吠えまで気になってきてしまうのは神経が研ぎ澄まされているからなのだろうか?とにかく寝るまでの間嫌な思い出と不安が脳内にフラッシュバックしてきてしまい、これからの旅がどうなるのかと思いやられた。これからアメリカを渡っていくというのに、えらく小さなことで思い悩むというはひどく格好悪いように思えた。