ESSAYS IN IDLENESS

 

 

TRYON CREEK

トライオンクリークという町から車で30分くらいの小さなトレイルへ行った。行く途中にスーパーで新鮮な野菜と簡単な調味料を買い、あわよくば森のなかで飯を食べようという算段だ。オンボロのアウトバックに乗り込み、窓を開け放ってボリュームを上げる。テレンスのアメリカ人らしい暴走気味の運転で予定よりも早く着いた僕たちは、手早く靴を履き替えてトレイルに向かう。到着した時点で夕方の6時、まだまだ日は高くて暫く沈みそうにない。この時期のポートランドの日没は夜の8時半くらいで、夕方からでもハイキングに行けてしまう。「5時集合でハイキングって、本当に大丈夫なの?」「いや、全然いけるって。ほんとに」みたいな会話をしていて半信半疑だったけれど、本当に何の問題もなかった。

森は静かで、涼しくて、自然の匂いがして心地が良かった。ところどころ馬の糞が落ちていて(乗馬できるらしい)、その糞を踏まないように気をつけながら、細い山道を淡々と登っていった。リスが巣の中から出てきて木のみを食べていたり、遠くで鳥が聴いたことのない声でさえずったりしている。森の木々は太く苔むしていて、朽ちた倒木は蔦に絡まれて神秘的な雰囲気を醸し出していた。こうした森のなかの環境や雰囲気も日本とは違った良さが感じられる。夕日が森のなかに差し込むことでできる陰影が森をより一層美しくしていた。

「この植物は食べられる」「この植物は触ると湿疹がでるから気をつけて」「この木はレッドツリーという木で、この表面についてる緑色の表皮は鉄分が錆びたものだと言われているよ」ここまで連れてきてくれたテレンスの自然に対する造詣の深さに驚く。オレゴンに住む人は州のもつ自然に対するリスペクトがあり、自分たちの州の自然を愛しているという。「日本の山もいいけれど、この山は日本の登りやすい山よりも全然綺麗かもしれない」と僕が言うと「そりゃそうだよ、だってオレゴンなんだから」という言葉が帰ってくる。彼は基本的に物凄く謙虚な性格なのだけれど、自然に関してはすごくプライドと自信を持って薦めてくるのに驚いた。たまに脇道にそれてトレイルに沿って流れる川を見たり、すれ違うランナーや犬の散歩をしている人たちと会話をしながら休み休み進んでいく。猛スピードで駆け寄ってきた泥にまみれてごちゃごちゃになったトイプードルにズボンをがっつりと汚されたりもしたけれど、そんなことをしているうちにあたりが暗くなってきた。汗も冷えてきてTシャツでいると少し寒い。身体に残る程よい疲労感が心地いい。久々に誰かとこうして登山をして、いつも一人で悶々としながら山道を歩いていたことを思い出した。

hiroshi ujiieday, outdoor