HOW MANY BUDDIES? EVERYBODY! -CORY HENRY @WONDER BALLROOM-
今日はコーリー・ヘンリーを見にワンダーボールルームへ。あいにくの天気で、ライブハウスに向かう道すがら突然の大雨に打たれたりしながら、なんとか会場にたどり着いた。雨具をきているというのに中までしみてくる。4月の雨はまだ冷たくて身体はとても冷たくなる。
いそいそとライブハウスに入ると、うっすらとマリファナの匂いが会場中に漂っている。ライブ開始10分前についたけれど会場はガラガラで、オープニングアクトが始まってもガラガラのままだった。曲が終わって静かになる度に、あちらこちらで大声で話している人たちの声が聞こえる。MCに重なっていしまっていてなんだか申し訳ない気持ちになる。オープニングアクトがおわると、既に時刻は22:30を回っている。観客もコーリーのライブに合わせてぐいぐいと前に出てくる。気付いてみればその時刻になると会場は満員になっていた。会場に流れるBGMが切れかかる度に客が奇声を発してメインアクトの登場を煽る。しかし、なかなか彼は来なかった。結局のところメインアクトのコーリー・ヘンリーが現れたのは23:15分を回ったくらいの時刻で、日本だったらとっくにメインアクトが終わってる時間だな、なんてことを考えていた。
ダラッとした雰囲気で、小太りのヘビーロック好きそうなギタリスト、南米っぽい格好のイケメンドラマーが次々と入場してくる中、ナーディなメガネをかけたコーリーが登場した。なんの用途かわからないけれどキルトのナップザックを背負って小走りで入場してくる。カマシ・ワシントンやロバート・グラスパーに比べてなんてオーラが無いんだろうと思った。シンセサイザーのセットアップをしながら水を1リットルくらい飲み干すと、MCが始まる。
イントロが始まると嬉々とした表情でメンバーがプレイをし始める。見ているこっちが思わず笑ってしまうような、楽しげなムードが漂う。これまで何度かアメリカでR&Bのライブを見てきたけれど、そのどれとも全く異なる。RGXは色気のある音色と、圧倒的な技術力をベースにした即興、そしてサーカズムを感じるMCで人々を魅了していく、言わば陶酔感のある類の音楽だった。カマシ・ワシントンは本人の放つ圧倒的なオーラと、アフロアメリカンらしさを全面に押し出したソウルフルなグルーブやとんでもない音圧で、言ってしまえば崇高さすら感じるようなステージだった。それらとは違い、コーリー・ヘンリーの場合は彼からにじみ出る親しみやすさがあり、メンバーにもかなりの自由と裁量を与えながら、全員で楽しみながら(半ばふざけながら)演奏しているというのが感じられる。例えば、コーリーがオルガンで同じ鍵盤をずーーっと押しているだけで、ギターのおじさんがメタルみたいなフレーズを延々ぶちかまして来たりするんだけど、そういうのをメンバー全員で笑顔で見守りながら曲を展開していったりするような場面が何度もあった。RGXやカマシは純粋な音楽の天才であることは誰しもが認めることだろうけれど、そしてコーリーもそうなのだろうけれど、この中で一番人間的に魅力があるとおもったのは間違いなくコーリーだっただろう。それは楽しそうにプレイする周りのメンバーの生きた表情や、彼にのせられて会場全体でシンガロングをする観客の楽しそうな雰囲気を感じればすぐにわかると思う。そんな彼の演奏をこの日見られたことはとても幸福な体験だったと言えるはずだ。
「これで僕らの曲は最後になるけど、みんな今日はきてくれて本当にありがとう。ライブ前にも言ったけど、今日のこのライブの感想を友達に伝えてくれ。必ずポートランドには戻ってくるから、次は友達も一緒に連れてきてみんなで踊ろう。ところで友達って何人くらいいるんだい?誰に伝えるつもり?」
そして、その次に彼が言ったフレーズが、この日一番気に入ったフレーズはこれだ。
たぶん普通に考えるとこの言い回しは少しこダサいような印象を受けるのだけれど、彼が言うとなんでも面白おかしく、そしてかっこよく聞こえてしまう。それが魔法にかけられた言葉のようにいつまでも頭の中に残っていた。ライブ終了後、ステージに駆け寄ったファン達と長いこと握手をしているコーリーを横目に見ながら会場を後にする。気づくともう時計は午前1時を回っていて、終電を目指して雨の中を1キロくらい走って帰った。